#25or72:三々or五々
「いや、都内……都心で星見るって何でなん、って感じなんだけど」
バックヤードにシンゴの招集によって集まったのは五人。夕方前、少し間の空く時間帯に軽く声掛けしたのが五人ってだけで、七人全員は流石に手すきでは無かったので無理だったようだ。が、それだけでこんなに集められるとは、いやほんと何事かを掴みかけているよねシンゴは……
思い返してみれば
当然のような疑問をかっちりと返してきたのは、知的そうな感じとその奥から上目遣い気味でいつも見上げてくるという甘めのイメージを両方与えてきてそのギャップで揺らしてくるんじゃねえかと思えるほどのあざとい緑色のセルフレームをその通った鼻筋にすっと乗せたような
七夕にかこつけた「天体観測」にかこつけた何らか、を企てているようだが、ツインテ女が言う通り、少しばかり苦しい。都心で星が満足に見えるところなんてほとんど無いはずだ。九十六年であったとしても。一八九六年でも無い限りは。が、例の謎の縛り……「山手線の外側に出たら爆破消失」というのを忘れずにいてくれたようで、そこは少し安心する。こいつにしては今ここに至るまでの流れを断ちたくないとか、そんなレベルの話までになっているのかも知れないが。まあもうシンゴひとりで何事もこなせそうな感じだよな……俺は添え物未満の何かになってしまっているような状況ではあるし。
いやぁ、星を見るってのはまあ方便で、みんな誘って食事でもどうかなって思ってさ。最初は北の丸公園か御苑かとか迷ったけど、まあじめじめしてるし虫も多いからね、でも僕あんまり高いのもダメだから、高島屋の十四階とかがありがたいかなって。そこからの夜景も込みで星も見上げつつ眺めるっていうのはどうだろう、という、また女子の心を掴みそうなことをのたまい始めた。さらには競馬で当てたから僕が全部奢るよ、という相手にそこまで気を遣わせないフォローも入れつつか。さらに四、五十階の高層レストランは駅の西側、つまり「山の手線外」にしかないので苦肉の「十四階」にもさりげなく理由を挟みつつか。
シンゴにしては気が利いているな、とかはもう思わなかった。壁一面を埋める天井までの高さの金属ラックに乱雑に詰め込まれている煤けた段ボール箱を背にしてなお、その丸顔は今や輝いて見えるのだった。しかしエラい勢いでカネを使っているけど「対局」の方は大丈夫なんだろうか……
ともかくその場の五人とあっさり約束を取り付けると、鼻息荒く仕事に戻りおった。次の対局まではまだ間が空くが、おそらくこいつにとってはこっちの事情の方が大事なのだろう。歯がゆいが、何も言う立場に無い。と、
「……リンドーくん、『七月七日』は僕の新しい誕生日となる……」
フライヤーに向かいながら、小声でそんなことを俺に向けて言ってきた。何だって?
「君に会って、僕は変わった。いや変われたんだ。じゃなかったら僕はずっとさえないままでずるずる生きていたと思う。今までの荒唐無稽とかに引きずられて自分の変な部分が覚醒したってのもあるけど、いちばんはリンドーくん、君なんだよ」
えらく悟ったようなことを言い出したが、俺の周囲に漂っていた「七色の俺ら」は感慨深く頷いたり、いい笑顔で親指を突き出して見せたりしてるが。いやお前らは何やねん。
「君という存在、息子がいるという事実が、僕の深層心理にも、あ、イケるんだ……の認識を植え付けてくれたんだ……」
だいぶ気持ちの悪いことをのたまいだしたが大丈夫だろうか。
「……七月七日に、僕はプロポーズをする。もちろん一人にだよ? それで取り敢えずそれからは僕はおとなしくしているよ」
何をもって「もちろん」としたのかは謎だが、それ以上に「おとなしくしている」?
「七色の君たちは、おそらくひとりに集約してしまうんだろう? その君に、後は託すよ。僕もそれなりに無い頭を絞ってやってきたけど、もう『細則』もぎっちり抜け漏れなく完備されちゃったからね。次からはマジの『サイコロ勝負』になるよね。そして僕の『運』は生まれてこの方無かったし、今回のでこの先のも前借りして使ってしまったとも思えるんだ」
なんか、色々考えてたんだな。突き放された感じもしなくもないけど、宿主の意識が残っている方がイレギュラーなんだってのは分かってたことだ。これからは、俺自身の力で、「能力」で、戦い勝っていかなきゃならないんだろう。勝つことに意味が見出しづらくなってきた俺だが、それでもやるしかない。
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