#23or74:起死or回生

 かくして第四投。ライフ多寡は「1対4」までもつれ込んだ。そして今までのシンゴの舐め切らせる戦法に血が上ったか、スキン氏もライフ買い足しは無し、と、そのような白熱した状況へと場はシフトして来ていたのであったが。


「舐めくさったコトして来やがったがよぅ!! 一撃では勝敗は絶対つかねえ勝負だっつうことは理解出来てなかったようだなぁ~? 次こそ俺の『運気』でてめえをガツと跳ね飛ばしてやっからよぉ~? 覚悟せえやぁッ!!」


 おおーイキれてきたねぇ。確かにこいつの「運気」とやらは結構なものと感じているし、こういう場での「流れ」っているのは結構馬鹿に出来ないってことも何となく経験があるから分かったりもしてる。


 してるが。


 「一撃で勝負はつかない」。それはもう前提も前提の段階で分かっていたことだ。当然シンゴも把握している。第二投でお前が「9」を出した時に苦し紛れの「ぶっつけ」をカマしたよな? あれは「9」が出たから、出てしまったからの行動だからっつうことが分かってきた。待ったんだ。相手が「9」の時にこちらの「9」を「置いて」きてしまったのなら、相手にダメージは与えられない。そしてさらには細則改訂が為されてしまい、以降その手は使えなくなる。だから待った。


 あの時、弾かれながらもまた「9」を呈したお前のクソ幸運も大したもんだが、その時「0」も「3」も出さなかったシンゴもまた、強運だろう。ライフは土俵際まで押し込まれたものの、とにかく生き残った。二分の一の賭けに勝ったんだ。であれば流れはそろそろこちらに来てもいい頃だ。


 もちろん、「運」だけに任せるつもりは毛頭なさそうだが。


「何と、どちらもライフを回復しないというインファイト!! これはヒリつくいい勝負が初っ端から展開されている……ッ!! 次で決する確率は六十一パーセント……ッ!! 青が三十三、赤が二十八、とやや青押しか? いやライフに後の無い赤が圧倒的不利に思えますが……ッ!!」


 天城の実況も熱が入ってきている。そして何かを期待しているかのような顔つきだ。いつものポーカーフェイスがほんの少しひび割れて来てんじゃあねえか……? 確率では不利も不利、が、おそらくこちらの勝率はそんなには低くはねえぞ?


 六十七パーセント。次の投擲でこちらの勝ちになる確率はそれのはずだ。そして今までの出目からしても、そろそろ来てもいい頃だろ?


 向こうの三面もある「0」が出るのがよ?


「らぁぁあああッ!!」


 何の気合いか、青のサイコロをテカる額の前に押し戴いてから投げ放ったスキンヘッド氏の、胴間声が響き渡る。対するシンゴは「見」の構え。だったが、ヤロウの出目を確認してからってわけでも無さそうだった。付け加えられた細則、「ボウルの十センチ以上上空からの投擲」、それだけを誤らないように慎重に「投げ入れ」ようとしている。


 いける、はずだ。もしここで決められなかったとしても、


「……ッ!!」


 お前の「想像力」、いや「創造力」は本物だよ。本来なら俺が発揮するべき能力らしいが、宿主が使えても、いやもとより持っていてもおかしなことじゃあねえよな?


 投げ放つ。高さは充分。ボウルの奥底目掛け、落下していく赤いサイコロ。その下ではヤロウがその数瞬前に投げ放っていた「青」が既に鎮座していたわけだが。


 ……その出目は、「3」。


 陰ってきたとは言え、相当の運だなこりゃあ。四回投げて「0」が皆無とは。


「ヘヒャハァ~、まだまだ来てるぜぁ~!! そしててめえの負けの目も『三分の一』出てきたってわけだ、震えろぁッ!!」


 これでもかのシャウト。それはシンゴの福々しい頬肉を少し震わせたようにも見えたが。


「……」


 勝利確信の笑みだよな? そしてスキン氏よぅ……イキれての高笑いのなか申し訳ねえけど、「9」を出せなかった時点で、


「……」


 お前の負けなんだよ。


「……ッ!!」


 シンゴの手を離れた赤いサイコロは、ボウルの底に当たると、垂直に跳ね上がるようにして反射したかと思うや、そのままバンジージャンプの事後の如くに行ったり来たり、のような連続挙動を見せる。まるで、何か糸状の物で吊られているかのように。


 いや、実際吊られているわけだが。


 サイコロを十字にしっかりと保持したその「糸」は、シンゴの擦り切れたシャツの袖口から抜き取られたものであって。天面向いてるのはもちろん「9」。上から吊り下げている糸の力によって、ボウルの底で止まった面も無論「9」。


「バッ!! そ、そんなこ」

「あっるぇ~、糸を使って吊り下げちゃいけないなんてルールありましたっけぇ~?」


 正直、仲間でも身内でも殴りたくなるにちゃり顔面を晒しながら、


「決着ッ!! ナンバー96の勝利ですッ!!」


 どこまでも嬉しそうな、それでいて有無を言わさないほどの頑強たる天城のシメの言葉に頷くと、シンゴは右肩口の俺の方に首をひねりつつ、両目がつぶられているのでウインクと呼べるかは定かではないが、とにかく途轍もなく調子に乗ったメンタルを、その痛みに堪えているかのような丸顔から放出させてきたのだが。


 うぅん、殴りてぇ……その皺の寄った中心部目掛けて拳を振り抜きてぇぇぇ……

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