#20or77:悪戦or苦闘

 意味不明としか思えない、謎の自信をその小太りの身体にみなぎらせながら、シンゴはひどく落ち着いた所作にて壇上中央辺りに設えられた半球状の「ボウル」と称されていたものの脇に着くのだが。直径一メートルほどはあるか。金属の質感はアルミっぽい。サイコロを投げ入れたらかなり暴れて乱反射しそうな感じだ。さて。


 任せていいのか? こいつはこいつなりに、向けてるベクトルはどうだか分からないけど考えはしているようだ。乾坤の一発、そいつに乗っかった方が、この運任せの対局の勝率を上げることが出来るのかも知れない……


 会場の空気は、今や場違いなほどの熱気が足元の絨毯から湧き上がってくるようで。それらは壇上で向かい合う初っ端無謀な対局者ふたりに、筋違いな傍観者的な立場から放射されているようであり。やはり違和感。九十六人がとこ集まったらしきこいつらは本当に「才気あふれる」者たちなのだろうか……当事者意識が足りてないように思えるのだが。まだこの衆目の前に考え無しかのようにふらふら登り上がっちまったシンゴとイキれライダースの方が初手としては正しいようにも思えてきた。


「フヘヘヘ……せっかくだから俺はこの『993000マキシマム』を選ぶぜ……ッ!!」


 いや、正解などは何処にもないのかも知れない。不必要に思えるほどそのうすら長い顔面の左側だけを歪め攣り上げながら、そんな無意味に思えるほどの宣言をカマしてくるのだが。凄えな。どの時代から引きずり込まれてきたかは先ほど封筒を手渡された時に胸元に付けられさせられたネームプレートにご丁寧に書いてあるから分かる。「53」。つまりは「今」よりも未来。「1999年」からの、か。が、この時代でもおそらくマイノリティー側に分類されるだろう、違う意味での世紀末感を醸したメンタル。そしてその選択も一貫しての振り切り、「993000」……が、思考は、何かしらの考えはあるのかも知れない。「9」は問答無用の最強の目。そいつをぶん回せば負けることは絶無。であれば理論上「三分の一」のそれに賭けるのは戦術としては成り立っているように思える。と言うかサイコロ選択も早い者勝ちだったな……「選択」。その速さをも、天城の奴は図ろうとか考えているのかもだ。常に上から睥睨されているかのような感覚……腹立たしいが。


 て言うか、当の丸顔は何を選択した? 最速でいやに即決していたように見受けられたが。教えろと促してみたが、なんか異様に集中状態に入ってしまったようでノーリアクト。握りしめた丸っこい拳の中にサイコロ二つは握りしめられているだろうで窺えないことから、俺は背後のウレタンボードへと目を走らせる。まだこの二人しか選択していないわけだから、自然とシンゴの選択も分かろうってことで……


 「954300」。確かにその番号が付記された場所から赤青のサイコロは抜き取られているらしく、空洞を晒している。しかし、何でそれを選んだんだ? 「9」があるのは良さそうというか何らかのセオリーなんじゃねえかと思えてまあ納得できないこともないが、「543」。中途半端に思えなくもない。そして「0」ふたつ。攻撃・防御、どちらに特化しているわけでもない。バランス型……いいように捉えるとそうなのかも知れねえが。が、これで勝てるのか?


 俺自身も最近では落とし込まれている傍観者の立場で、ヤロウの肩口にちんまり留まっていることしか出来てないというのが業腹だが、第一投。とりあえず見守るしかない。


「さあ!! 互いに勝負を託すダイスを選択したところで……いよいよ開始となります!! ナンバー96の方は『赤』、対するナンバー53の方は『青』のダイスを使用していただきます、いいですね……? それでは、わたくしの発声の後、五秒以内に、ということをお忘れなく……」


 流石に緊張が走ってきた。しかしシンゴはゆっくりと自分の右手の指先に赤いサイコロをつまみ上げると、それを相手に、周囲に見せつけるように自らの丸顔の前で保持した、何らかの決めポーズ的なものをカマしているが。こいつのメンタルだけは鋼だよなあ……


 ヒャハッという笑い声が本当に板についている相手のスキンライダースもそれに合わせるかのようにして外連味たっぷりの仕草にて「青」ダイスを印籠のように突き付けてくる。いやぁ息ぴったりの二人だねぇ……


「『ダイス』ッ!!」


 そして始まる対局。天城の期待が存分に込められた掛け声の後、シンゴ、スキンの二人はほぼ同時に、「ボウル」に手にしたサイコロを投げ放つのだったが。金属と硬めの樹脂が放つコワワワ……というような乱反射の音。そして意外に早く、ものの三秒ほどで第一投の決着はついた。


 赤「5」。まずまず……と思ったが、相手が相手だった。そしてそんなよぎった懸念通りに、


「『9対5』ッ!! まずはナンバー53の一撃がヒットだぁッ!!」


 そして何がそんなに楽しいのか分からないが、キャラに合わないはしゃぎ気味の天城の声が告げた通り、相手の最大級が突き刺さってしまったわけで。立ち上がり……最悪とまではいかないがキツいぞこれは……どうすんだっ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る