【1.7万】異世界で日本人少女と運命の恋!? と思ったのにジャンルがカルトホラーだった【凱歌のロッテ お試し版】

平蕾知初雪

(1)俺、妙に異世界人慣れしている異世界へ降り立つ

 トラックに轢かれて即死、と思いきや、魔法使いが暮らす異世界に来てしまったっぽい俺の名は鹿野知行かのともゆき


 異世界に飛ばされる男子高校生は地味で平凡な十七歳と相場が決まっているが、俺もその例に漏れない。っていうか、いつか異世界行けるんじゃないの?とさえ思っていた。フツメン選手権があったらいい線行くと思う、ちょっと夢見がちではありますが、それくらい冴えない高校二年生だ。


 異世界側も異世界人が飛ばされてくるのがブームなのか、言葉が全然通じないのになんだかちょっと慣れてるっぽかった。


 なぜか海岸のような場所で目を覚まし、フラフラとその辺を彷徨っていた俺は、近隣住民によって速やかに保護された。和服よりやや漢服寄りの謎の服を着せてもらったあと、ロバみたいに小さな馬に乗せられてドナドナと、でかくて広い城のようなところへ連れていかれた。


 後から聞いたら、城に見えたのはお子様魔法使いたちのための学校だったらしい。ファンタジーの鉄板、魔法魔術学校というやつか。うーん、西洋風建築じゃないから、正直映画で観たときのようなワクワク感は、ないな。決して地味ではないけど、木造なせいか神社仏閣感が拭えない。


 校内の一室に連れて行かれると、餅とか味噌っぽい味付けのおかずとか、かなり和食に近い飯を出してもらえた。腹は減っていたのでありがたく頂戴することにする。やたらでかい餅を頬張っていると、突然誰かに声をかけられた。


「ムー、トウキョウ? ヒト?」

 なんとなくめんどくさそうな顔で聞いてきたその男は、この世界の人間にしては珍しく短髪だ。「茶髪の日本人のお兄さん」に見えなくもない。


 そう、ここの世界の人間ときたら、人種が全然わからないのだ。みんな彫りの深さとか肌色や髪質、体格なんかがバラバラすぎるし、着てるものや髪形のルールがわからないから、男か女かも俺には判別しにくい。


 ジャパニーズライクなその男性が話すカタコトの日本語に、できる限り真面目に返事をしていると、遅れてやって来た別の男から突然側頭部に何かを突き付けられた。


 えっチャカ? うそ?

 この隣の人、囲碁の漫画に出てきそうな陰陽師的装いなのに、そういう世界観?


 急展開にドキドキしていたのも束の間、その二人の男性たちは、なぜか流暢な日本語で話をし始めた。


「法師、どうします? 今から連れて帰りますか」

「うーん、いやですね。さっき戻ってきたばかりで、もう疲れたんで。それに明日からおれ休暇ですし。とりあえず理天りてんにでも連れて行ったらいいんじゃないですか」

「困りましたねえ。あなた、数日おうちに帰れなくても構いませんか? 遅くとも今月中には帰れると思うのですが……」

「えっ」


 思わず言葉に詰まってしまった。こちとらトラックに轢かれて異世界に来たんですが? そんな奇跡体験してるのに数日程度で家に帰れるなんて、そんなお手軽でいいの? おいしいとこどりの温泉ツーリングみたいだけどいいの?


 俺がすぐに答えずまごまごしていたからか、陰陽師お兄さんとジャパニーズライクお兄さんは再び相談を始める。


「法師、彼がこちらで暮らすこともできるのでしょうか」

「そう望むならいいんじゃないですか。おそらく。今更一人二人増えたところで構わないと思いますがね。以前に東苑とうえんではそう言われたんでしょう」

「あの子たちは小さかったですしねえ」


 話は断片的にしか見えなかったが、やはり異世界にやって来る人は少なからずいるようだ。


「あの、日本から来た人が、俺の他にもいるんですか?」


 ちょっと興味が湧いてそう尋ねると、二人はそれぞれ軽い調子で「いる」と肯定した。っていうかなんだよ、俺の言葉通じてんじゃん。


 ご飯も食べ終わったので詳しく話を聞いてみると、俺は陰陽師お兄さん、もといフィオロンさんの魔法で、一時的に異世界人たちと意思疎通ができるようになっているらしい。


 で、前回東京から人が流れ着いたのは十年前。そのときは神様のところへ行ってお伺いを立てただとか、まあ宗教のことはよくわからないが、とにかくてんやわんやの騒ぎになったそうだ。


「ですが、その子たちは幼いながらにこちらで暮らすことを選択しました。ここは東世とうぜの東端、あおの国の藤京とうけい区です。彼らもかつて藤京の海岸で見つかりました。古から藤京はあなたがたの故郷と所縁のある土地なのです。彼らはその後、ここから見て西にある理天学院りてんがくいんで育ちました。すっかり大きくなって、今も元気にしていますよ」


 フィオロンさん、ちょっと親戚の叔父さんみたいな雰囲気があるなぁ。

 続けて、ジャパニーズライクお兄さん、略してジャパ兄が、少し腰を屈めて俺の顔をしげしげと覗き込んだ。


「きみはその姉弟と同じくらいの年頃に見える。いくつだ?」

「十七歳です」

若秋じゃくしゅうだな。エルメと同じ年だ。たぶんそれくらいだった」


 このジャパ兄、さっきから絶妙に適当なんだよな。


 でも、ジャパ兄はそのあと、その姉弟のことを少し俺に話してくれた。どうもメリットもデメリットも提示した上で、今後の身の振り方をどうするか、よく考えてから決めていいよ、ということらしい。正真正銘「自主性に任せる」ってやつか。我が家は最低でも四大進学! 正社員登用は必須! 孫の顔を見るまでは死なない! という平成リテラシーファミリーなので、こういうとこはちょっとキュンです。


 ジャパ兄によれば、十年前、東京からこの魔法の世界『東世とうぜ』へやってきたのは、有馬ありまエルメちゃんとメルくんの姉弟。


 いや待て、なんつー名前だ。地下アイドルやりつつマカロンとか売ってそうだよ。


 でも、東京ではちょっといじられがちなキラキラネームが、異世界に来ちゃったもんだから図らずもめちゃくちゃ馴染んでしまっている。人生何がどうなるかわかんないもんだ。


 ともあれ「青の国」の治安はそれほど悪く見えなかったし、異世界人である俺に格別の危険があるようでもない。今すぐに東京へ帰ることはできないらしいが、こちらでの過ごしかたは俺が決めていいということだったので、俺は「エルメちゃんに会いたい」と言ってみた。


 日本生まれ異世界育ちの姉弟がどんな子たちなのか、シンプルに気になるし、そりゃあ話だって聞いてみたい。

 それに同じ日本人同士だし、年も近いなら、仲良くなれるような気がする。


 と、マイルドに下心を隠した俺の申し出に、ジャパ兄はあっさりと許可をくれて、エルメちゃんとメルくんがいる場所へ連れて行くとまで言ってくれた。ありがたしジャパ兄。


 今更だけど、ジャパ兄はソンテさんという名前そうだ。さっきからうっすら感じていたけど、異世界人の名前、ちょっと覚えにくいかもしれない。俺がこの世界を描く漫画家やラノベ作家や神様だったら、絶対この人たちにはミハイルとかハインリヒとか名付けるのに。これからほかの人の名前、ちゃんと覚えられるだろうか……。


 エルメちゃんたちが暮らしている理天区というところへ出立する直前、ジャパ兄はおれの耳に顔を近づけて、すごく小さな声でぼそりと呟いた。


「東世で罪を犯した人間を、神は見失わない。必ずだ。悪さをして神ににされないよう、くれぐれも気をつけろ」


「えっ」


 思わず、そんな情けない声が出ちゃった。

 ってまさか……お婿に行けないような……ってコト!?


 た、確かに日本の昔話でも、神様の許しを請うために子どもや若い女性を生贄にする話はよくあるが、異世界だから男も対象なのかな!?


「いやっ、そっ、大丈夫です! 初めては好きな子とって決めてるんで! 気を付けます絶対!」


 先ほどまであれだけ適当だったのに、今のジャパ兄は真剣そのものだ。目を細めて、険しい顔つきでおれの目をじっと見据えている。


「アー、ムー、トウキョウヒト、ワカナイ?」

「このタイミングで魔法切れちゃったか~」




 * * *


※本作は別作品「凱歌のロッテ」のセルフパロディです

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