3.すぐに出よう

「どうだ、似合うか? アリシア、素直な感想を頼むぞ」


 さっそく俺がプレゼントした首飾りをかけたフィーナがアリシアに感想を尋ねている。


「フィーナはなんでも似合うわよ」


 アリシアはフィーナには甘い。昔からくっついて行動していたせいもあるんだろうな。フィーナがどんなに変な格好をしていたとしても「似合う」の言葉を口にしなかったことなんてないほどだ。今回もイエスマンは動じない。

 それがわかっているのだろう。フィーナは頬を膨らませて不満顔を見せた。


「もういい! テッド、似合うか似合わないか。どっちかはっきり言って!」


 やべっ。こっち来たよ。

 俺へと詰め寄るフィーナは、ビキニアーマーという直視しにくい姿になっているとわかっていないみたいだ。顔を逸らした俺は悪くない。


「あー! なんで目を逸らすの!」

「なんでと言われてもだな……」


 さらに接近するフィーナ。ビキニアーマーの薄い防御力では胸の谷間が丸見えなんだよ……。

 しかも首飾りをつけたことにより、胸元に目が吸い寄せられやすくなってしまった。違うんだ、そんな狙いはなかった。そもそも誰がビキニアーマーなんぞを身につけてくるだなんて予想できるんだよ!

 大人になったとはしゃぐんだったらさ、年相応の振る舞いってものを考えろってんだ。


「まあまあフィーナ。兄さんに美的センスなんてあるはずないじゃない。それよりも大人らしさをアピールする方が兄さんには効果的よ」

「大人らしさ……。そうだな、大人らしさで勝負しなきゃ」


 大人にこだわるフィーナは、大人らしく落ち着きを取り戻してくれた。さすがはアリシア。我が妹はフィーナの扱いを心得ている。俺が美的センスがないってのは聞かなかったことにしよう。


「それにしても、その鎧っておじ様が用意してくれたのね?」

「そうだ! お父さんがわざわざ冒険者になる私のためにとプレゼントしてくれたんだ」


 フィーナはアリシアに見せつけるようにくるりと一回転した。金髪とともに首飾りもふわりと舞った。


「へぇ……、おじ様が、フィーナをこんな露出の多い姿にさせたんだ……」


 おっと、アリシアの低い声。

 相手がフィーナならどんな格好をしようとも褒めるアリシア。だがさすがに今回は褒めるだけでは終わらなかったようだ。

 だよな。フィーナと一番の仲良しであるアリシアなら心配して当然だ。こんな格好で村の外に出ようだなんて正気の沙汰じゃない。


「これは軽くて動きやすい。しかも強力な魔法が付与されているおかげで防御力も高いんだ。こんなすごい鎧をプレゼントしてくれるだなんて、お父さんは私のことよくわかってくれているんだ」


 わかってない。おじさんは何もわかっていない!

 鎧と呼ぶのもおこがましい。ビキニアーマーを娘にプレゼントする父親なんぞがいたなんて、驚きを通り越して怒りが湧いてくる。

 俺はアリシアに視線を送る。妹は頷きを返してくれた。俺たち兄妹の心は一致した。


「なあフィーナ」

「なんだ?」

「今日はおじさん、家にいるのか?」

「ああ。今日は私の誕生日だからって、夜はご馳走を作ってくれるって張り切っているよ。ふふっ、私も大人なんだからそこまで気合い入れなくてもいいのにな」


 なんて言いつつも、フィーナも嬉しそうである。子供のようにかわいい。

 そう、フィーナは純情可憐で、父親の好意なら純粋無垢な心で受け取ってしまう奴なのだ。

 穢れのなんたるかを知らない娘にこんな痴女のような格好をさせるとは……許せん!


「なあフィーナ」

「なんだ?」

「これからフィーナの家に行ってもいいか? ほら、おじさんと話があるからさ」

「ん? 別にいいぞ。それなら今夜はいっしょにご馳走を食べよう! アリシアもいいだろう?」

「ええ、いいわ。あたしもおじ様に用ができたことだしね」

「やったっ。じゃあすぐに行こう」


 そんなわけで、俺とアリシアはフィーナの家へと向かうこととなった。

 おじさんと真面目な話をするために。これはフィーナの将来にかかわることだ。


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