Ⅰ.出会い
第1夜 普通逆だと思うんだよね。
「流石に──────か。────いから当然か。ただ、──────はするはずだろうから、取り合えず───みるか」
なんだろう。
遠くから声が聞こえる気がする。凄く澄んだ、よく通る女の人の声だ。
「取り合えず────邪魔だな───せるか。まずは──────必要があるな。ここをこやって……」
意識がはっきりとしない。寝起き……にしては、不思議なほどに体がだるい。二日酔いかなにかなんだろうか。二日酔いになんてなったことはないけど。なんならお酒自体を飲んだことがない気がする。
ん?気がする?どういうことだ。自分のことだぞ?なんでそこがはっきりしないんだ。記憶喪失なのか?
「これでよし、と。それじゃ失礼して……──────いるだけで大──────くぞ。若いというのは良いもんだな」
段々と意識がはっきりしてくる。それと一緒に、さっきまであっただるさが消えていき、代わりに妙な快感が湧き出てくる。主に下半身の辺りだ。
なんでだろう。もしかして、寝小便でも垂れたんだろうか。もしそうだとしたら、良い歳になってなかなか恥ずかしいことだ。
「さて。これ──────十分だろう……よし、それじゃ失礼して」
取り合えず目を開けよう。状況はよく分からないが、どうやら近くに女性がいるみたいだ。聞き覚えがない声だけど、誰だろうか。勝手に部屋に入って来たんだろうか。もしそうだったら、注意のひとつくらいしないと。僕はそう考えて、瞼をゆっくりと開け、
「お、起きたか。まあ待ってろ。君はそこで寝ているだけでいいからな」
視界に映ったものはいくつかあった。
今まさにショーツに手をかけて、脱ごうとしている女性。
その股下辺りにある、自分のものとも思われる男性器。
そして、遠くに見える、剝ぎ取られたであろう僕の服。
客観的に事実を分析すれば「逆レ○プ五秒前」と言った塩梅。そして、被害者である僕が目覚めても全くその手を緩める気のない女性はまさに、
「変態だーーーーーーーー!!!!!!!!」
絶叫。
そして、逃亡。
「え、ちょっ、なに!?なにこれ!?」
出来なかった。
何故なら僕の手は頭の上に掲げた状態で、がっちりと縛り上げられていたからだ。少し動かそうとしてみたけどびくともしない。多分、とんでもなく頑丈に縛ってあるぞ、これ。
女性が不満げに、
「どうした。折角この私がしてやろうというのだから、もっと喜びたまえ」
「いや、喜べませんよ!?っていうか何事もなかったかのように入れようとするのやめてくれません!?」
女性はさらに不満げに、
「なんだなんだ注文の多いやつだな。もしかしてあれか?エスコートしたいとか、そういう質か?めんどくさい男だな。こういう時は黙って流されておけばいいものを」
「いや、無理ですよ。第一まずあなたは誰なんですか。その前にここはどこなんですか?どうして僕はこんなところにいるんですか?それ以前に僕は誰なんですか?」
女性は人差し指で耳に栓をするようにして、
「うるさい。あと質問が多い。一つに絞れ馬鹿者」
要求にこたえるのはなんだか負けた気がするんだけど、仕方ない。多分、そうしないと話を聞いてもらえないと思うから、
「じゃあまず、ここはどこなんですか?」
「ここか?ここは私の自宅だ。この部屋は寝室だな。私と君の」
「え、僕の?ですか?」
「そうだ。まあ、一面的には、だが」
「一面的にってどういうことですか?」
女性は両手で×を作って、
「その質問は説明が長くなるからパスだ」
パスなんかありなのか。
だけど、そんな文句を言っても、質問への回答を打ち切られて、逆レイ○が再開されるだけだから、黙って次の質問に移る。
「それじゃあ……どうして僕はここにいるんですか?こんな縛られた状態で」
「それは逃げられないようにだな」
「逃げられないようにって……逃げるようなことをするつもりだったんですか?」
「別にそんなことをするつもりはないさ。だが現に君はさっき逃げようとしたじゃないか」
そうか。
つまりは逆○イプするにあたって逃げられないように拘束したってことね。なるほど、犯罪じゃねーの。
僕は更に質問をぶつける。
「えっと……それじゃ、僕は一体……誰なんですか?」
そう。
正直なところそれが一番気になっていた。
さっき意識がはっきりしてからずっと思い出そうとしているんだけど、頭の中に靄がかかかったみたいに何も思い出せないんだ。記憶喪失というやつなのだろうか。もし、その原因が彼女であるのならば、犯罪性はなおさら強く、
「分からん」
なり、
「え?」
なんだ?
今なんて言った?
わからん?そんなことあるはずがない。自宅の寝室に連れてきて、監禁しておいて、身元も何も知らないなんてことがあるのか。はっ!もしかして、ひとめぼれしたから思わず誘拐、
「言葉通りだ。それは私にも分からん。あの時はとにかく、選んでいる暇なんてなかったからな。そこにいた君を入れるしかなかった」
選んでる暇がなかった。
入れるしかなかった。
一体どこに入れたんだ。ハイエースの後部座席か車のトランクにでも入れたのか。選んでる暇がないっどういうことだ。あれか。既成事実を作れる男なら誰でも良かったってことか。
やばい。本当にやばい。さっき変態だって断定したけど、完全に犯罪者じゃゃないか。変態で犯罪者。関わり合いになっていい人種じゃない。どうやって抜け出すかは考えないといけないな。
だけどその前に、
「えっと……それじゃ、最後の質問いいですか?」
「ああ、いいぞ」
「あなたは……誰ですか?」
聞いておいてなんだけど、この質問いるんだろうか。だって、もう決まってるじゃないか。変態にして犯罪者なんだ。お巡りさんこの人です。
僕がそんなことを考えていると、女性は実に不敵な、そして、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべて、
「私か?私は
これでもかってくらいカッコつけるようにして、
「──霊能探偵だ」
そう言い切った。ちなみに当然のように挿入五秒前の状態のままだ。かっこつけたいなら、せめて下着くらいは着てから言うべきだったと思う。
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