Soldier of Legend ~元プロゲーマーのチーター狩り~
柊 春華
序章:ハンティング
ハンティング
フルダイブ型
フルダイブ型の家庭用ゲーム機が普及して久しいこの時代。世界中の企業が関わるほどの社会現象を巻き起こし、いま最も流行っているゲームだ。
このゲームは楽しいのは勿論だが、最たる理由は「金になるから」の一言に尽きる。
プレイヤーはイベントや大会などで上位の成績を残すとゲーム内通貨を得られる。そしてそれが換金できる。
大会そのものにも賞金がかけられており、年一回の世界大会で優勝できたなら、五千万の大金が手に入る。
大会などは参加費用が必要だが、基本プレイは無料。だから誰でも気軽に『ソル』を始めることができて、強くなればお金が手に入る。優秀な成績を残せば有名にもなれる。
夢があるものだから、ゲーム人口は爆発的に増加した。
大衆が注目すればビジネスが生まれる。個人では動画配信やコーチングをすれば小遣い稼ぎになる。
企業は大会を企画できる。その規模が大きいほど多くの金が動く。主催企業だけでなくその関連企業も儲かる。それを元手にもっと大きなことができる。さらに儲かる。
素晴らしい循環だろう。
ほとんどの人は真っ当だ。プレイヤーも関連企業も、その関係者も、ちゃんと利用規約やコンプライアンスを守って活動している。そんな当たり前のことを当たり前にやっている。
だけど一部の者はそうじゃない。
なまじ儲かるものだから、効率よく儲かる方法だけ追求する。利得に目を眩ませて、ルールを破り、不正を働く。
大なり小なり、そういう奴らが必ず出てくる。
『ソル』の中では今まさにその不正が行われていた。
古びた街並み。住民のいない市街地で銃声が鳴り響く。人影は六人。『ソル』は
「はははーっ! ざこざこざぁこ! どこ狙ってんですかぁ当たんないでちゅよぉ?」
マナー悪く煽りながら、優勢チームのプレイヤーは遮蔽物のない大通りを走り抜ける。
通常FPSでは遮蔽物を使いながら進むのがセオリーだ。このようビルに囲まれた大通りを走り抜けるなど、どうぞ撃ってくださいと言っているようなもの。普通ならまずしない行動。
そのプレイヤーはセオリーを完全に無視している。
当然ビルに潜む敵チームは集中砲火を浴びせかける。だが一発も当たらない。
弾速よりも速くそのプレイヤーは駆け抜ける。
単にそのプレイヤーの走る速度が常軌を逸しているのだ。
ゲームシステムの範疇を超えて。
「ぎゃはははっ、三人いて一発も当てられねぇとかダッサすぎるんですけど! それでAランクプレイヤーなの!? うっそだろ! こんな下手くそでもなれるなんてランク戦ってチョロすぎじゃね!?」
嗤いながら、煽りながら、狙いもつけず、視線も向けず、乱雑に両手のアサルトライフルから銃弾をばら撒く。
敵チームはすぐに壁などに身を隠して射線を切った。Aランク帯のプレイヤーともなればそれなりの上級者。銃口を向けられた瞬間に射線を切るなんて無意識レベルでやってのける。
こんな攻撃で落とされる者などいない。ダメージすら負うものか。
「っ!?」
それなのに二人落とされた。放たれた銃弾は左右共に計二十発。それら全てがヘッドショットとなってアバターの頭が吹き飛んだ。復活待ちのリスポーンサークルの光がビルの影から漏れている。
射線は通ってなかったはずなのになぜ!?
残された一人は混乱した。
チャットが届く。いま落とされたメンバーから。
――Cheater。
「ふざけんなよ!」
カッとなって思わず叫んだ。
不正プログラムを使うプレイヤー。それがこいつらということだ。射線を切っていたのに全弾ヘッドショットを決められたのは、撃った弾がそうなるチートツールを使っていたから。
こいつらは真っ当にプレイするプレイヤーの敵だ。
「くそったれがぁっ」
「あーはいはい、そういうのいいから」
チーター相手に勝ち目はないと悟り、せめて一矢報いようと決死の突撃を敢行。
だがそれも他の二人によって蜂の巣にされた。距離は二百メートル以上離れている。アサルトライフルの有効射程ではないはずなのに。
全員チートを使っているのか。
「クソがっ、テメェらみてぇなのはとっととBANされちまえ!」
「負け犬の遠吠えおつー」
脳天に一発。それでアバターは粉々に砕けた。消えたプレイヤーが使っていた武器やアイテムがその場に散らばる。
「よっわ! よっわよっわ! 手も足も出ないとかはっずかしぃっ」
アバターが砕けた場所に銃弾を撃ち込んだ。この行為は禁止されてはいないが、プレイヤー間では死体撃ちと呼ばれるバッドマナーとされている。
死体撃ちをしていると残りのチームメイトが合流してきた。
「ポイント稼げたか?」
「おおっばっちしだ!サンキュウな! この調子なら俺もすぐAランク行けそうだわ!」
「そんじゃ次の獲物を狩ろうぜ」
「だな。おっし、じゃんじゃん殺してポイント稼ぐぞ! 目指せSランクっつってな」
倒した敵チームのアイテムを奪って物資を整え、次の
「ズルしてランク上げてる方が恥ずかしいっての」
横からかけられた声に足を止めた。
「あ? なんて言った?」
黒と赤を基調にした軍服のような装いの男。黒い前髪の奥で切れ長の瞳が三人を睨みつけていた。
「チートで勝って粋がってる方が恥ずかしいって言ったんだよ。それでAランクSランクに行ったって別にすごくもなんともねぇし。むしろチート使わないと勝てない雑魚なんですって宣伝してるみたいなもんだろ」
「殺されてぇのかてめぇ!」
「煽り耐性ひっく……」
銃口を向けられて、黒髪の青年は両手に短剣を持った。
それを見たチーターは鼻で笑った。
「FPSの『ソル』で短剣とかばっかじゃねぇの! マイナー武器使って戦う自分カッケェとか思っちゃってるわけ!? うわさっぶ! さっぶいわぁ!」
「そう考えてるうちはAランク帯すら早ぇな。Cランク辺りで揉まれてこい」
「はぁ? 何言って――ぶげぇっ!?」
上空から飛来した質量体がチーターのアバターを一撃で粉砕した。本来であれば出現するはずのリスポーンサークルは出現せず、そのチーターが所持していた物資が散乱する。
この現象はバグではないし、ましてやチートでもない。
「大丈夫クルト!? 助けに来たよ!」
快活なソプラノ。チーターを潰した大槌と一緒に落ちてきた赤髪の女の子が、黒髪の青年――クルトの身を案じた。彼女もクルトと同じように黒と赤を基調とした服を纏っている。
「ミリィ、まだ奇襲の合図出してないんだけど」
「だってチーター三人と正面切って戦うのはいくらクルトでも危ないって思って……」
「そういう作戦だっただろうが。いまごろ作戦考えたガロが頭抱えてるぞ」
「てへ、それはごめん」
自分の頭をコツンと叩く。可愛いけど、それで何でも許してもらえると思うなよ。
「作戦ぶっ壊した責任とってそいつら何とかしろよ」
「へ?」
ミリィが立っている位置はチーター二人にちょうど挟まれている。
「なんだこの女!」
「やってくれやがったな!」
当然二つの銃口は彼女に向く。
「ひゃああっ!? 助けてクルトーっ!」
「後で
「鬼ぃーっ!」
半泣きで脱兎の如く駆け出した。向かう先はチーターの一人。大槌で頭部を守りつつ接近。
チーターは慌てて発砲したが圧倒的に行動が遅い。ミリィはチーターの背後に潜り込み、チーター自身を盾にして銃撃をやり過ごした。
「なっ!?」
「
このゲームにフレンドリーファイアはない。だが銃撃を受ければ多少のノックバックが発生する。ノックバックが起これば次の行動が遅くなる。
それは隙だ。秒にも満たないわずかな隙。
いつの間にか彼女の手には刀が握られていた。双剣、大槌に続いてまたもFPSではマイナーな近接武器。
「成敗! ていっ!」
流れるような動作で首に刃が立てられた。刀による首への一撃は即死判定。チーターの首が落ちてアバターが爆散する。
だけどそこが限界だ。
残った最後のチーターが銃を構える。今度は盾にできるものがない。
「ガロ、よろしく」
狙撃音。ビルの隙間を縫って飛翔した弾丸がチーターの頭に突き刺さる。HP全損とまではいかない。だが衝撃で大きく仰け反った。
肉薄したクルトがチーターの腕を掴み、銃を奪い取り、そのまま組み伏せる。
「
短剣を突き刺す。わずかに残っていたHPが削られ、チーターのアバターがひび割れていく。
「ルールを破って、他人が作ったプログラムを使って、思考を止めて戦術も組み立てず、プレイスキルも磨かず……そんなもんで俺たちと渡り合えるとでも思ってんのか?」
アバターが爆散した。チーターが持っていた物資が辺りに散らばる。
それを見下ろし、吐き捨てるように――。
「プロゲーマー舐めんな」
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