第7話 宿ギルド
両者は騒ぐ声が外まで聞こえてくるギルドの木造の扉をあけ、なかへと入っていった。
「あ、おかえんなさーい。で、どうします? 泊まります?」
待っていたらしく黒髪の店員が扉のすぐ近くにいた。店員は帽子のつばを指であげる。
「ああ、お手数をかけてしまうがここのギルドで登録することにした」
「そですか。なら準備するんでこちらへどうぞ」
と店の奥へと両者は連れていかれてしまった。途中で魔王が扉につっかえたのは黙っておこう。
奥の部屋へと通され、そこにはカウンターと何枚かの紙と羽ペンが置かれていた。
「これは契約書です。お二人は一番下になるEランクからですね」
分かっていたことでもあるが両者どちらも一番低いランクからのスタートとなる。
「ランクは分かったことですし、ギルド契約書を渡しますねぇ」
黒髪の店員は被っている帽子を少し上げて契約書を両者に渡す。薄いベージュ色の紙に様々なことが書かれている。内容はこうだ。
・当ギルドが経営している宿は他国及び当ギルドで契約したパーティしか利用することはできない。
・ギルドのランクは上からS、A、B、C、D、Eとある。
・宿泊する期間はクエストを3つ以上受けなければならない。
・当ギルドではクエストでの怪我、死亡は一切責任はとらない。
・当ギルドではギルド外でのギルド契約者の犯罪は一切責任はとらない。
・ギルド内及びギルド外で問題を起こした場合当ギルドから出禁とする。
など他にもいくつかの注意書がされていた。初めてのギルド登録に内心浮かれていたクレイであったが説明はしっかり聞いていた。
「これ守っていただければ結構ですので」
「分かった、このギルドの顔に泥を塗るようなことはしないと約束しよう」
堅苦しく言ったクレイに「別にそんなに固くならなくても」と笑いながら店員は答えた。
「んじゃ、この契約書にサインと血印をお願いします」
店員から羽根ペンと針を渡され、ベージュの契約書に名前を書き指に針を刺し四角の枠に自身の血をつけた。その跡も再生能力で消える。
「それじゃ、契約完了ですね。これからよろしくお願いしまーす」
被っている帽子を少し上げ頭を下げた。指は帽子のつばをもったままである。
「わたしはこのギルドで働いているクロエ、名字はブラッキーです」
「私はクレ………」
「あぁー、契約書読むんでいいです」
黒髪の店員──クロエはそっけなく手をヒラヒラと揺らし答える。
「部屋に案内しますねー、ついてきてください」
部屋の鍵らしいものをもってクロエは両者を手招きする。リルトとの対応の差で驚くクレイだったが十人十色ということですぐに切り替えた。
階段を上がり、右に曲がったあと奥へと真っ直ぐいくとちょうど建物の角のところに部屋があった。
「ここですね、じゃあ鍵渡すんで失くさないよ………」
「『ちょっと待て』」
なんと珍しい。勇者と魔王がハモった。天変地異でも起こるのだろうか。クロエがその声に振り向く。
「なんです?」
『もしや我ら……』
「相部屋なのか………」
クレイと魔王はどちらも互いを指差している。
「はぁ……そうですが………」
それを聞いた途端真剣な表情になる。
「………代金を二倍払うからどうにかしてくれないか……」
「はい……?」
『此奴と同じ部屋ならば我は野宿をする……』
「いまさらですか……」
そんなに嫌なのか、と呆れるクロエであったがせっかくの金づる。失うわけにはいかなかった。
「まあ部屋は余ってますし、いいですよ」
帽子のつばを少しあげてクロエは両者に口を開く。こんなに仲が悪いパーティがあるだろうか。いや勇者と魔王だから仕方がないです。
「わがままを言ったみたいですまない、感謝する」
『当然のことだな』
当然のごとくその発言のせいでまたクレイから足を踏まれた。今日の宿泊代として魔王が造った偽硬貨をクロエに渡す。特に問題なさそうに受け取ったため逆にクレイの罪悪感が増していった。魔王はケロリとしている。
こうして魔王は角の方の部屋、クレイはその隣の部屋となった。
「それと二倍にはしなくていいんで。クエストやって代金払ってくれればそれでいいです」
そしておやすみなさーいと言って階段を下りていった。まだ下の階は騒いでいる。男の笑い声と女の黄色い悲鳴が聞こえてきた。
『……うるさい輩だな』
魔王は舌打ちをして右足だけ足踏みをすると受け取った鍵を使って部屋のなかへと入っていった。狭い、という声がクレイに聞こえてきた。
「魔王め、黙ることはできないのか……」
そんな魔王に腹を立てながらもクレイも部屋のなかへと入っていった。部屋にはベッドが2つとテーブルに椅子が2つというシンプルな構造であった。クレイは鎧を脱ぎ、ベッドの近くに置く。そしてベッドに倒れこむと魔王が寝首をかきにきても対応できるように剣を抱き締めて疲れきった身体を休ませるため静かに目を閉じた。
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