第78話 イチャイチャ目撃


 うちの高校には「伝説のパン」と呼ばれるものがある。

それは昼休みに購買で毎日1つ限定で販売されているというパンだ。


 昼休みが始まるチャイムが鳴って、

すぐに購買に買いに行ってもいつも売り切れている。

滅多に手に入らないという理由から伝説だと言われているらしい。


 そして最近、うちのわがままお嬢様の橘がそれをどうしても食べたいと言い出した。

そんなの橘の権力で買ったりできるだろと言ったら、ちゃんと競争に勝ち取って食べたいらしい。

とにかく、そういうズルを使うのはNGなんだと。



昼休み前の授業の合間、橘と作戦会議をする。



「普通に買いに行っても買えないよな〜」


「だよねー。いっつも売り切れてるし」



 一番乗り購買に行ったと思っても、上には上がいる。

伝説のパンを狙ってる生徒だって大勢いる。

そう簡単に手に入れることはできない。



「じゃあ!授業中に抜け出して買いに行くとかは?」


「昼休み前の授業ってことか」



 確か購買は昼休み前の授業の時に準備していて、

昼休み開始とともに販売も開始する。

授業中に抜け出して購買の前で待機して、販売開始を待つってことか。



「それなら授業中に抜け出すっていうか、気分悪いって嘘ついて保健室で待機した方が不審に思われなくないか?」


「うん!保健室で待とう!で、昼休み始まったらすぐに購買に行けばいいじゃん!」


「よし決定!・・・でも2人で保健室に行くのか?」


「当たり前じゃん!決行は明日だよ!」





 そして作戦当日。

俺と橘は昼休み前の授業を仮病でサボり、

保健室で休んでいた。


 保健室はベッドやカーテンが白色を基調としてあり、

少し薬品の匂いがした。


 俺がしんどくて橘は付き添いだと言うと、保健室の先生はベッドで寝かしてくれた。

よくよく考えれば付き添いなんておかしいと思うが、

保健室の先生は何も言ってこなかった。

多分、俺たちみたいにサボる生徒がたくさんいるんだろう。


 俺がベッドで横になり、

橘はその横の椅子に座っている。


 ベッドは白のカーテンで仕切られて個室のようになっている。

枕は硬くて寝心地は悪いが、学校にいるのにベッドで寝ているのはなんだか不思議な気分だった。

保健室は俺たちと保健室の先生以外に人はいなかった。



「ねぇ、なんか変な感じだね」



橘も同じことを感じていた。



「学校なのにベッドで寝てるなんてな」


「だねー。もう午後の授業受けるのめんどくさくなってきちゃった」



 そんなことを話していると、

ガラガラと保健室のドアが開く音が聞こえた。

誰かきたようだ。



「すいませーん。ちょっとしんどくて」


「私は付き添いで来ましたー」


「そっか。ベッドで休む?」



 保健室の先生はそう対応したが、来た生徒の声は全然しんどそうじゃなかった。

カーテンを開けて隣のベッドに入っていった。

足音的に2人、そして声的に男女だ。



「私ちょっと用事で離れるねー」



 保健室の先生はそう言うと保健室から出ていった。

保健室には俺たちと隣の男女だけに。



「よし、仮病ってバレなかった。ここで授業開始まで待機だな」


「保健室なんて初めて来たかも」



 カーテン越しに隣の男女が話しているのが聞こえる。

こいつらも仮病かよ。



「ちょっとやめろって」


「いいじゃん」



 イチャイチャしている声が聞こえる。

こいつら、ここでするんじゃないだろうな?

隣に俺らがいるの知らないのか?


 橘を見ると、同じように隣のベッドの男女に気づいていて、

俺に嬉しそうに、やばい!と報告してきた。


 そして手で卑猥なジェスチャーをする。

こら、どこでそんなの覚えたんだ。


 俺も気になってよく耳を澄ましてみると、

より鮮明に隣の男女の会話が聞こえた。

橘も同じように聞き耳を立てている。



「ってか保健室って結構、薬品の匂いするんだな」


「だねー。ってか保健室私たちだけだし大丈夫だって」



 ん?

このチャラい話し方、橘と同じような、ちょっとギャルっぽい話し方。

聞き覚えがあるような・・・



「よく保健室でそういうことするみたいなんあるよな」


「やっちゃう?私はいいよ?」



 橘と顔を合わせる、

まさかと思ったが、あいつらの声にしか聞こえなかった。

このままじゃあいつらが、そういうこと始めちまうぞ!

聞きたくないと思った俺は、バッ!っと思いっきりカーテンを開けた。


そこには、はだけた服で、蓮に乗りかかっている梅澤がいた。



「・・・お前ら何やってんの?」



俺がそう言うと、



「きゃぁぁぁ!」



 梅澤が保健室の硬い枕を投げてきた。

グフッ!

顔にクリーンヒットする。


「里奈と蓮、何やってんのよ」


「なんで京子たちがいるの!?」



 梅澤がそう叫びながら、

はだけた服を急いで着直す。

いや、こっちのセリフだわ!



「れ、蓮から誘ってきたのよ!」


「いやお前だろ!」


「全部聞いてたから。あんたら2人とも乗り気だったでしょ」


「そ、そんなことないけど?」


「もうちょっとでお前らのそういうとこ見るとこだったわ!」



 俺たちは伝説のパンをゲットする途中で、

とんでもないところに出くわしてしまった。

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