第75話 いじめの過去
集会の教室を出て、橘と2人で廊下を歩く。
「3年生を送る会ってなんか色々めんどくさいねー」
「・・・うん」
「っていうかあの浜中って人、めっちゃグイグイ来たねー。横に彼氏がいるのにありえなくない?」
「・・・そうだね」
頭の中を色々なことがグルグルと回る。
考えてるからか、いつもより歩くスピードが遅い。
橘が俺の異変に気づく。
「ちょっとどうしたの?なんか今日変だよ?」
「・・・」
「ねぇ、聞いてる?」
腕を掴んで俺の顔を覗き込んでくる。
橘に言うか。
隠す必要なんてないしな。
「さっきの浜中って男いただろ?」
「うん。なんか私にめっちゃ話しかけてきた人でしょ?」
「・・・あいつ、多分ストーカーの犯人だよ」
橘が立ち止まる。
「嘘でしょ?な、なんで分かったの?」
「俺がストーカーを捕まえようとした時、一瞬だけ顔が見えたんだ。それが・・・浜中だったんだ」
橘が立ち止まって何も答えない。
「・・・なんか怖くなってきた」
「大丈夫だよ、学校では人もいるし何もしてこないって」
優しく手を握る。
橘の手はいつもより冷たい気がした。
「これは作戦会議だな」
もう蓮も梅澤も帰っていたが、
事情を説明すると、すぐに集まってくれることになった。
夜のファミレス。
テーブル席に俺と橘、目の前には蓮と梅澤。
作戦会議+夜ご飯で、みんなで食べるために大きなピザを頼んだが、
蓮だけが一人でバクバク食べている。
「じゃあその浜中って男がストーカーの犯人ってわけ?」
梅澤が聞いてくる。
「うん。多分俺の記憶通りなら間違いないと思う」
「じゃあそいつを捕まえればいいじゃねーか!」
ピザを頬張りながら蓮が言う。
「そうだけど、まずは警察とか先生に言った方がいいんじゃない?じゃあ警告とかしてくれんでしょ」
「でも一度は橘を襲おうとしてるわけだしな。警告しても意味ないんじゃ・・・」
俺が不安を口にする。
「そうだね。まず、警察と先生に連絡してみよう」
「なんか 逆上して恨んできたりしないよね?」
橘が聞いてくる。
「それはわからない。でも今は警察とかに相談するのが最善の策じゃない?」
「・・・そうだね」
「大丈夫だ!今まで色んなことあったけど、なんとかなったでしょ?今回も大丈夫だって!」
蓮が橘に明るく話す。
そうして翌日、警察と先生に連絡してみると、
両者とも思ったよりも早く動いてくれて早速、俺たちや浜中から話を聞くとして学校の応接室に集まることに。
多分、警察に証拠として提出した動画で橘が襲われそうになってるのを見て、
事態を重く見たんだろう。
放課後、俺たちいつもの4人で応接室へ向かう。
「でもよかったじゃん。今日でストーカーから解放されるね」
梅澤が言う。
「うん!これで安心だね」
橘もそう言うが、
俺は何か簡単にこの件が終わらない気がしていた。
あの浜中って男がそんな簡単にストーカーを認める気がしなかった。
「じゃあ、開けるぞ?」
応接室のドアをゆっくり開ける。
中はほぼ校長室と同じ構造で、
黒の革のソファーが対面にあって、その間にテーブル。
壁には高級そうな絵が飾ってある。
ソファーには浜中と、その隣には浜中のお母さんだろうかが座っている。
浜中は俺たちを一瞥して、すぐに目線を戻した。
浜中の顔に全然焦りは見えない。
そして対面のソファーには橘のお父さんが座っていた。
橘のお父さんも来てたのか、去年クリスマス以来かな。
ビシッと決まった高級なスーツに髪型が応接室の雰囲気をより厳かな雰囲気にする。
腕を組んで微動だにしない。
・・・この人去年のクリスマス、サンタの格好してたよな?
ソファーの周りには浜中や俺たちのクラスの担任の先生や警察の人が数人取り囲んでいる。
思った以上に大ごとになってるな。
なんか懐かしいな。
去年の夏だろうか、今は仲良い梅澤やバスケ部のキャプテンたちと揉めた時もこうやって集められたな。
橘がお父さんの隣に座る。
その後ろに俺たちが立つ。
「全員揃ったみたいなので、話を始めて行きますね」
警察の人が言う。
「まず、浜中さん。こちらの橘京子さんはあなたにストーカーされてると仰られてますが、あなたは橘さんにストーカーをしてますか?」
警察の人が問いかける。
さあ、なんて言うんだ。
「ストーカーなんてしてません」
浜中は否定した。
やっぱり、そう簡単に認めないとは思ってた。
「じゃあこの動画を見てもらえますか?」
そう言って警察が見せたのは、
俺たちが撮影した、橘が襲われそうになっている動画だった。
「橘さんを襲おうとしているこの男はあなたではないということですか?」
「違います」
浜中は言う。
「そうですか、でもこちらの加藤一馬さんはこの時にあなたの顔を見たと仰ってるのですが」
そう言って俺が指名される。
「見間違いじゃないですか?」
浜中は眉ひとつ動かさずに答える。
「僕は確かに見ました」
続けて俺は答えた。
このままじゃ浜中のペースになる。
「証拠は?」
「証拠って・・・」
確かに証拠と言われると、そんなものない。
「この男が僕だっていう証拠がないじゃないですか」
ダメだ。
こちらサイドは全員黙り込んでしまう。
「私の息子をストーカー扱いなんてしないでもらえますか!」
そう大きな声で話し出したのは浜中のお母さんだ。
「この子がストーカーなんてするわけないでしょう!」
「お母様、落ち着いてください」
担任の先生がなだめる。
「そもそも、あなたたち4人、見るからに真面目な生徒じゃないでしょ!」
真面目な生徒って・・・
確かに金髪もいるし、そういう風には見えないかもな。
「4人で協力して私の息子を貶めようとしてるんでしょう!」
「そんなことしてないです!」
橘が反抗する。
ダメだ、このままじゃパッションで押し切られる。
「それに、もうひとついいですか?」
浜中が会話を遮る。
何を言うつもりだ?
「橘さんと、その後ろにいる梅澤さん」
浜中が2人の名前を挙げる。
「あなたたち2人、いじめをしてましたよね?」
あー、まずい。
ここでその話題はダメだ。
「そんなことする2人の言うこと信じられるんですか?どうせ、僕をストーカー扱いして、いじめて遊んでるんでしょ?」
橘も梅澤も何も言えなくなってる。
完全に形勢が逆転した。
警察も担任の先生も浜中がストーカーしてるのは嘘ではないかと疑い始めているのを感じた。
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