第68話 子供達


 駄菓子屋でアルバイトをすることが決定し、

土日に一度体験に行ってみることに。


 そして土曜日。

駄菓子屋に到着して店主のおばあちゃんである山内さんから諸々説明を受けた。



「じゃあ、なんとなくそんな感じだから。あとは実際にやってみましょうか」


「はい!」



俺と橘で元気よく返事をする。



「じゃあちょっと私、用事があるから店任せるわね。店の後ろの家にいるから何かあったら呼んでねー」


「え?」



 なんだって?

山内さんが裏に行こうとするのを止める。



「お、俺たち2人だけですか?」


「大丈夫よ、レジ対応だけでいいから。接客なんてしなくていいわよ〜」


「で、でも!」


「じゃあ私行くわね〜、あ!店のお菓子は好きに食べていいわよ!それにお会計以外は寝てても漫画読んでてもいいから!」



山内さんはそう言うと、裏の家へ消えていった。



「おい橘、しょっぱなから2人だけだぞ。どうする?」


「大丈夫でしょ、なんとかなるって!それよりお菓子好きに食べていいって!」



 橘はそう言うと、店の中でお菓子を物色し始めた。

おいおい、呑気なやつだな。



「これ美味しい!」



橘が勝手に歩き回って駄菓子を食べている。



「ダメだって、あんまり食べちゃ・・・」


「でもいくらでも食べていいって言ってたじゃん!」



 言ってたけど、遠慮しなさい。

そんなことをしているとガラガラと扉が開いて、小学生ぐらいの女の子二人組が入ってきた。

外はすでに日が沈み始めていたので、放課後に買いに来たのだろうか。

女の子たちはいつものおばあちゃんがいないからか不思議な顔をしていて、驚いた様子だった。

こういうのってなんか言った方がいいのか?



「い、いらっしゃいませ〜」



口からぎこちない言葉が出た。



「一馬くん、なんかぎこちないよ?」



橘に笑われた。



「こういうの初めてなんだって!」



橘が女の子たちに寄っていく。



「いらっしゃい!ごめんね驚かせて、今日からここで働いてるの!」


「そうなんだ!おねえちゃんすっごく可愛い!」



 女の子たちは警戒心を解いたのか、橘に向かって話し始めた。

初めてのレジは最初は戸惑ったが、慣れれば簡単だった。


 女の子たちはお菓子を買って、畳のスペースでお菓子を食べながら話している。

その後もちょくちょくお客さんは来たが忙しいわけではなかった。



「楽しいね」



レジに一緒に座っている橘がこちらを向いて言う。


 ああ、最高だ。

駄菓子食べ放題で丁度いい忙しさで、

山内さんも優しい。


 最高のアルバイトだ。

そんな最高の環境を噛み締めていた時、



「今日はいっぱい買うぞ!」



 元気な声が聞こえた。

店の前には小学生ぐらいの男の子の集団がわいわい騒いでいた。

ぞろぞろと店の中に入ってくる。

男の子たちは店の中に入るやいなや俺たちの存在に気づいた。



「あれ?おばちゃんじゃない」


「あー、今日は俺たちがアルバイトで働いてるんだ」



 俺がそう答えるが、

男の子たちはみんな橘の方を見ている。

そしてひそひそ話を始めた。



「多分高校生だぜ!」


「うん!すっげーかわいい!」


「みて!めっちゃスカート短い!」


「ほんとだ!絶対に変態女だよ!」



橘さん、変態女ですってよ。



「ちょっと君たち、聞こえてるんだけど」



 そんな橘の言葉なんて聞こえていないのか、

男の子たちはひそひそ話を続ける。



「すげー髪サラサラだぜ!」


「話しかけてみろって!」


「お前が話しかけろよ!」


「スカートめくったら怒るかな?」



スカートめくりなんて流行ってるのか?



「ちょっと!聞いてる!?」



橘が男の子たちに近寄り、しゃがみこんで言う。



「な、なに?」


「お菓子買いに来たんでしょ?早く選びなさい。・・・あと変態女じゃないから」


「そ、そんなこと言ってないよ!」



男の子たちは逃げるようにお菓子を選び始めた。



「お兄ちゃん!これ!」



男の子がお菓子をレジに持ってきた。



「はーい」




 うわ、このお菓子懐かし!

昔よく食べたわー。


男の子たちが橘に声を掛ける。



「ねえお姉ちゃん!一緒にお菓子食べようよ!」


「えー、今アルバイト中なんだけど」


「大丈夫だよ!おばちゃんも一緒に食べてくれたりしてたよ?」


「じゃあいっか」



 橘と男の子たちが畳のスペースへ移動する。

俺も行こうっと。

そう思って畳のスペースへ行こうとすると、



「あ!お兄ちゃんはいいから!」



 男の子たちがまっすぐな目をして言い放つ。

拒否されました。

小学生はストレートに言ってくるな。


 畳のスペースで橘と男の子たちはお菓子を食べながら楽しそうに話している。

1時間もすると男の子たちも帰った。


そして山内さんが裏から出てきた。



「ごめんねー、長い時間!」


「いえいえ!」


「どうだった?」


「すごい楽しかったです!」


「それはよかったわ!じゃあ今日はもう終わりにしましょうか。明日は夜に来てもらおうかしら」



 夜?

橘がすぐに聞き返す。



「え、夜もこの駄菓子屋開いてるんですか?」


「そうなのよ。駅が近いから仕事帰りの人が寄ったりするのよ?」



 夜も開いてる駄菓子屋なんて珍しいんじゃないか?

ということで明日は夜に駄菓子屋に来るということになった。

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