第66話 初めてのアルバイト


 年が明けて学校が始まって橘のアイドルオーディションなどもあったりして、

もう季節は1月の中旬になっていた。

こうやって1年もあっという間に過ぎ去っていくんだろうな。

1日1日を大切に過ごしていかないと。


 そんな1月の中旬、俺はある決心をした。

そう、初めてのアルバイトをすると。


 うちの高校はアルバイトは禁止されていない。

だからほとんどの生徒が何かしらアルバイトをしている。

俺もアルバイトをしようとはずっと思ってはいたのだが、

橘に止められていた。


 理由はアルバイトすると一緒にいる時間が少なくなるから、だそうだ。

でもお金ないと一緒に遊べないよ?と言うと、 

私がお金全部出すから、と言う。


 橘は親からお小遣いをもらっているらしい。

月いくらもらってるの?と聞くと、恐ろしい回答が返ってきたびっくりした。


 そんな理由で橘は俺のアルバイトを絶対許してくれなかった。

しかし最近、とても欲しいものができた。

それはゲーミングPCだ。


 今までは家庭用ゲーム機で遊んでいたのだが、

PCでしか出来ないゲームもあり、欲しくなった。

安くても15万円以上するものもあり、流石に月のお小遣いだけでは購入することはできない。


橘に言うと買ってあげる!とか言いそうだし絶対に言わない。


 ということで一応、橘にアルバイトをやることについて報告することに。

黙っていて後々喧嘩とかになっても嫌だからな。




学校の昼休み。



「なあ、橘」


「ん〜」



隣の席の橘は優雅に紙パックのミルクティーを飲んでいる。



「あー、アルバイト」


「ダメ」



アルバイトと言った時点で却下された。



「ま、まだ言ってないから!」


「どうせアルバイトしたいとかでしょ?ダメ!前にも言ったじゃん!」


「お願い!」


「嫌!二人で一緒にいる時間少なくなるよ?いいの?」


「大丈夫だって!そんなに変わらないって!」


「私は嫌なの!」



 橘はプンッ!っとそっぽを向いてしまった。 

ダメだ、橘は一歩も引かない。

何かいい方法はないか・・・そうだ!



「じゃあ同じバイトしようよ!」


「・・・え?」



橘がゆっくりこちらを振り向く。



「同じバイトなら一緒にいれるじゃん!」


「で、でも、私お金あるし・・・」



 ここだ!

畳みかけよう!



「俺と一緒にいたいんじゃないの?」


「そうだけど・・・」


「同じバイトなら一緒にいれるんじゃない?」


「・・・わかったよ!一緒のバイトする!」



多少いじけた感じの返事で橘が了承してくれた。



「でも一馬くん、なんのバイトするの?」


「うーん、無難にコンビニとか?」


「えー、違うのがいい!もっと静かで、バイト中でも一馬くんと話せて、忙しくないところ!」


「そんなとこないだろ」



 できれば俺もそんなバイトがいいが、

そんな優遇のいいバイトなんてないと思うんだが。


 結局その日は話がまとまらず、

また後日相談することに。




その日の夕飯の時、



「角のお家、新しい車買ったみたいよ〜」


「へー」


「明日、すっごい寒いんだって!」


「へー」



 夕飯はだいたい母さんのマシンガントークに、

俺と父さんで頷いている。



「早く春にならないかしら!」


「そうだねー」


「駅前の公園の前に駄菓子屋あるの知ってる!?」


「知らなかったー」


「あそこアルバイト募集してるらしいわよ!」



なんだって?



「いいわよね〜、駄菓子屋でバイトなんて!」


「え、そ、その駄菓子屋、アルバイト募集してるの?」


「え?そうらしいけど」


「・・・やろっかな」



 あった。

静かで、バイト中に話せて、忙しくないところが。


 夕飯後、橘に連絡すると、

そこにしよう!と即決だった。


 とにかく次の日曜日、

橘と一緒にその駄菓子屋を見に行ってみることにした。

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