第63話 初詣


 起きるとすでに橘はベッドにはいなかった。

リビングに降りると、遠くから水が流れる音がした。


 シャワー浴びてるのか。

俺も浴びよう。


 音の方へ行くと、

高級そうな洗面場が広がっていた。

まるで温泉とかホテルみたいだ。

横の台には橘の着替えが置いてあった。


奥からシャワーの音が聞こえる。



「橘?」


「あ、一馬くん起きたんだ!シャワー浴びる?」


「うん」



 着替え持ってきててよかったー。

服を脱ぎ始める。



「入っていいよー」



 橘が俺に呼びかける。

シャワー室のドアを開けると、

橘が裸でシャワーを浴びていた。


 かきあげられた黒い髪、

柔らかくて白い肌に水が滴っている。


 何回見ても綺麗だな。

しまるとこはしまっていて、出るとこは出ている。

女の子ってみんなこんなんなのか?


思わず橘のお腹あたりを撫でてしまう。



「ん?どうしたの?」


「いや、綺麗だったから」



スベスベで程よく筋肉も付いていて適度に柔らかい。



「触り心地いい?もっと触る?」



橘がそう言って俺の手を誘導する。



「いや、今はいい。初詣いかないと」


「え〜」


「早くシャワー浴びて行くぞー」


「もう〜」



 シャワーを浴び終え、

準備して橘の家を出て橘の家の近くの神社に向かう。

その神社は有名ではないが、長い参道に立派な神社がある。


 手を繋いで道を歩く。

2人とも手袋をしたまま手を繋いでいるが、ぬくもりはしっかり伝わってくる。



「一馬くん、人多いかなー」


「多いんじゃない?」



 時々、家族連れやカップルとすれ違う。

初詣の帰りだろうか。



 神社に到着するとすでに多くの人が参拝に来ていた。

参拝までに列ができていて、そこに並ぶ。



「ねぇ!おみくじ引くよね?」


「せっかくだしな」


「あ!向こうでぜんざい配ってるよ!」


「後で食べような」



 握った手をブンブン振り回しながら言ってくる。

落ち着け橘。


列も前に進んで俺たちの番が近くなる。



「えっと、礼してからお賽銭入れるんだっけ?」


「私の真似してたら大丈夫!」



 さすがお嬢様。

作法が身についてらっしゃる。


 俺たちの番になる。

橘の真似をしていく。

手を合わせて願う。



今年も橘と一緒に、健康に、楽しく過ごせますように。


願い終わって歩き始めると橘が聞いてきた。



「一馬くん、何をお願いしたの?」


「えー、秘密」


「ちょっと教えてよ〜」


「橘、こういうのは教えたら叶わないんだぞ?」


「ぶ〜」



頬を膨らまして怒っている。



おみくじを引きに行く。



「大吉でないかな〜」


「でたらいいな〜」



 そんなことを話していると、

おみくじの前でカップルが騒いでる声が聞こえてきた。



「あー!私、大吉!」


「俺もだわ!」


「2人とも大吉とかやばくない?」


「やべぇ!一馬と橘に写真送ってやろうぜ!」



 ん?なんで俺と橘の名前を? 

・・・あーこの声、あいつらだ。



「あー!里奈!」


「あー!京子!」



 そう、蓮と梅澤カップルだ。

梅澤は黒のレザーのミニスカートに、

白の分厚いダウンにマフラー。

蓮は上下ジャージ。

服装だけ見たらただのヤンキーカップルだな。



「京子!初詣きてたんだね!」


「うん!里奈たちとこんなところで会うなんてすごい!」



2人はきゃっきゃしている。



「一馬、今年もよろしくな」


「ああ、よろしく」


「大晦日は京子と過ごしてたの?」



梅澤が聞いてくる。



「ああ、そうだぞ」


「じゃあ大晦日はお楽しみだったってわけね」


「その言い方やめろ」


「ねぇ!蓮と里奈、この後って暇?」


「特に予定はないよ!」


「じゃあ私の家来なよ!」


「え!行く!」


「いこいこ!」



そう言うと橘と梅澤は走っていった。



「おい!おみくじは?」



俺の声なんて聞こえていなかった。



「おい蓮、あいつら・・・」


「楽しそうだなー」



 元日から騒がしいな。

でもそれが心地よくもあった。

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