第54話 隠したら浮気


 12月中旬が近づくにつれて寒さは勢いを増し、

学校でもマフラーや手袋を着けている生徒が多くなってきた。


 冬の花火大会で蓮と梅澤が付き合っているとカミングアウトしてから数日。

依然として俺たちの関係は変わっていない。



「寒いねー」



 橘がカイロを手で持ってスリスリしている。

カイロには俺が書いた橘の似顔絵がある。



「ちょっとトイレー」


橘がそう言うと立ち上がって教室を出ていく。


 女の子がトイレ行く時ってお花を摘みに行くとか言うよな。

男だとなんて言うんだっけ?

確か動物を狩に行くみたいなニュアンスだった気がする。


 そんなことを考えていると、橘の机からブーブーという音が聞こえる。

見てみるとスマホが置いてあって、誰かからのメッセージの通知音が鳴ってるみたいだ。


なんとなくスマホの画面を覗き込んでみると、



「京子、昨日はありがとう!ごめんね!遅くまで付き合わせちゃって」



 そういった文言の通知が来ていた。

アイコンを見てみると何かアニメキャラのアイコンで、

蓮でも梅澤でもない、俺の知らない人だった。


 まあ橘の友達か誰かだろう、

そう俺は思ったが、次に来たメッセージでその考えは消え去った。




「まさか京子があんなに積極的だとは思わなかったよ〜!」




 ・・・積極的?

どういうことだ?

遅くまで付き合わせちゃって、あんなに積極的だとは。

俺の中で2つのメッセージが結びつき、変な想像をしてしまう。


 まさかな・・・

橘に限ってそんなことはない・・・よな?

俺は橘を100%信頼している。

なのになんでこんなにドキドキしてるんだ?


 心臓が変なリズムで脈打つ。

なんだこの見てはいけないものを見てしまった感じは。

俺はもう隣の席に置いてある橘のスマホに釘付けになっていた。


 俺は無意識に手を橘のスマホに伸ばしていた。

そして橘のスマホを触ろうとした瞬間、思い直した。

流石に彼氏だからって彼女のスマホを勝手に見るのはダメだよな・・・

いやでも、これは緊急事態だし、いいんじゃないか?


 俺は橘のスマホの画面ロックの番号も知ってる。

次第に呼吸も荒くなってきた。



「何してるの?」



 急な呼びかけに思わず後ろに飛び下がってしまう。

橘が戻ってきた。



「い、いや、なにって・・・何も?」


「なんか私の机にしようとしてなかった?」


「し、してないって〜!」



 橘と数秒無言で見つめ合う。



「・・・なに?」



橘が目を細めて不審な顔でこちらを見てくる。



「いや、なんでもないけど」



 そう言って俺のカバンから小説を取り出して読み出す。

もちろん読んでるフリだ、内容なんてこれっぽっちも入ってきてない。


 橘が不思議そうな顔をして自分の席に座る。

よかった、スマホを見てたって気づかれずに済んだ。


 ちらっと小説を読んだフリをしながら横目で橘を見ると、

指を素早く動かして誰かにメッセージを返していた。

さっきのやつに返してるのか?


 このままでいいのか?

もう一人の自分が話しかけてくる。

いや、このモヤモヤを抱えたままは絶対に嫌だ!


俺は小説を勢いよく閉じて、ばっ!と橘の方を向いた。



「ど、どうしたの?」


俺の不審な行動に橘が驚いている。



「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


「な、なに?」



橘が少し身構えた顔をする。



「・・・なんか隠してることない?」



言ってしまった。



「え?隠してること?・・・別にないけど?」


「あー、それならいいんだけど・・・」



 会話終了。

これ以上追求する勇気がなかった。



「え、一馬くん、どうしたの?さっきからなんか変だよ?」


「いや?いつもと同じだけど?」


「なんか怖いんだけど」



 橘のスマホにきた謎のメッセージが頭の中でぐるぐる回る。

こんなこと考えたくなかったが・・・



まさか・・・浮気!?

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