第41話 文化祭 〜会議〜


 11月に入っていよいよ文化祭の季節がやってくる。

うちの高校の文化祭は模擬店と各クラブの発表がある。

クラスでどんな模擬店を出すのか話し合い、

それを文化祭実行委員会に持っていくらしい。

模擬店は基本なにをやってもいい。

過去にはお化け屋敷やジェットコースターを作ったクラスもあったとか。



「メイド喫茶とかは?」



 クラスで模擬店についての話し合いの時、

一人の男子生徒がそう言った。

そんなの女子は反対するだろと思っていたが、

案外クラスの女子たちはノリノリで、

結局俺たちのクラスはメイド喫茶をやることに、


 しかしここで問題発生。

他のクラスでもメイド喫茶をやるらしい。

まあ文化祭に2つもメイド喫茶は要らないのでどちらかは他のものに変更しないといけないことに。

次の文化祭実行委員会の集まりの時に双方のクラスの代表者が出席し、話し合いをするらしい。

でも話し合いというよりはどちらもメイド喫茶を譲らないだろうから、

戦いになりそうだな。


 で、誰がその話し合いに参加するのかを決めることに。

当然このクラスの学級委員とかだろと思っていた、が。



「・・・橘さんは?」



 誰かがそう呟いた。

それを皮切りに、



「いいと思う!」


「橘さんなら大丈夫!」



 などの声がクラスで続出した。

橘は学校でも有名人だし、

橘ならなんとかしてくれるというクラスのみんなの魂胆だろう。



「えー、私?できるかな〜」



 最初は渋っていたが、

結局橘で決定した。






 そして話し合い当日の昼休み。

・・・なぜか俺も一緒に参加している。

一人じゃ心細いからと橘に無理やり連れてこられた。


 教室に机をくっつけて一つの大きな机にし、

そこに生徒会、文化祭実行委員、クラスの出し物が被ったクラスの代表者が座っている。

どのクラスとメイド喫茶が被ったのだろうと、

チラッと被ったクラスの代表を見てみると、黒髪ボブの美少女、なにかと俺に話しかけてくる国崎さんがいた。

・・・まさか国崎さんのクラスと被ってたとは。

これは相手も手強いぞ。



「チッ!なんであの女のクラスと被ってるのよ!」



 橘がギロッと睨みつけている。

体育祭の障害物競走でもバチバチだったしな。

何かとライバル視してるんだろう。

国崎さんがヒラヒラと俺に手を振ってくる。



「ちょっと一馬くん!あの女とどういう関係なの!?」


「い、いや、何度か話したことのあるぐらいだよ」



橘が休みの日に相合傘で帰ったなんて口が裂けても言えないな。



「では文化祭についての会議を始めます。まずは実行委員会での報告から行います」



 会議が始まり、実行委員長のような人が場を仕切る。

文化祭実行委員が生徒会に向けて報告しているのだが、

それに対して生徒会の人がそれはダメだこれはダメだ、と言い、

またそれに対して実行委員会がまた反論している。


 会議はヒートアップし、教室は怒号と罵声が飛び交っている。

なんで俺たちはこんなのを見させられてるんだ?


 っていうかみんな真剣なんだな。

文化祭なんだから楽しくやればよくない?

そんなに熱くなるなって、

なんてこの場で言ったら殺されるだろうな。



「それではクラスの模擬店が被っていることについて話し合いましょう」



 急に会議の議題が変わる。

この雰囲気で話し合うのはなかなかキツイな。



「まずはメイド喫茶から。1年のクラスの代表者は橘さん、2年のクラスの代表者は国崎さん、ですね。

それでは話し合いを始めます。

まず、どちらもメイド喫茶をやることで変わりないですね?」



 さあついに始まるぞ。

橘と国崎さんの一騎打ちだ。

なんでだろう、ちょっとワクワクする。



「メイド喫茶は私たちがやります。国崎さんのクラスよりも私たちのクラスの方が可愛い子達が多いですから」



おおっ!橘がさっそく先制パンチを打ってきた。



「え?そんなことないと思うけどなぁ?実際私の方が橘さんより可愛いし」



うぉ!なんて重さのあるカウンターパンチだ!



「はい?鏡見たことあります?自分の顔をよく見てから言って下さいよセ・ン・パイ」



 二人ともガードなしで真っ正面からボコボコに殴り合ってる!

これは世紀の一戦になりそうだ。



「というか噂によると去年も国崎さんはメイド喫茶をやってるとか。なら今年は私たちに譲っていただくのが当たり前だと思いますけど。ですよね?生徒会と実行委員会のみなさん」



橘が生徒会と実行委員会に問いかける。



「そ〜お〜?そんなことないですよぉねぇ〜、みなさぁん?」



 国崎さんが甘えた声と困り顔で生徒会と実行委員を見つめている。

色仕掛けだ!

自分が可愛いことを自覚して存分にそれを発揮している!



「ま、まあ、一度経験してるからスムーズにできるかもしれないですね」



 実行委員の一人がそう返す。

完全に国崎さんにオトされてるな。



「くっ!なにをにゃんついてるのよあの女!」



橘が拳を握りしめている。



「えぇ〜でもぉ〜、1回やってるからぁ〜、私たちがやりたいなぁ〜」



 橘も色仕掛けで勝負してきた!

おい、これはどうなるんだ!?



「実行委員長ぉ〜、決めてくださぁ〜い」



国崎さんが手をもじもじさせて実行委員長を見つめる。



「私たちですよねぇ〜」



 橘も負けじと得意のウルウルした目で対抗する。

みんなの注目が実行委員長に集まった時、昼休みが終了するチャイムが鳴った。



「き、今日はここまでです!次の会議の時にもう一度話し合いましょう!」



 実行委員長がそう言う。

それを聞いた瞬間、



「帰るよ、一馬くん」



 橘は真顔に戻り、俺の手を引いて教室から出ようとした。

さっき実行委員長に見せたウルウルした目は乾ききっている。

おい、さっきのウルウルした目はなんだったんだ。



教室へ帰還する。



「もう!なんなのあの女!甘えた感じ出して!潔く私たちに譲りなさいよ!」



甘えた感じを出してたのは橘、お前もだろ。



「ま、まあまあ、橘もよかったよ」



橘がんん!と声にならない可愛い怒りをあげていた。

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