第33話 秘密の逢瀬


 体育祭も終わり、いつもの日常が戻ってくる。

あんなに盛り上がった体育祭がなんだか恋しい。

まあ11月に入れば文化祭があるんだけど。

それまでは、つかの間の休息だな。


 学校で勉強して部活に行ってたまに帰りに寄り道して帰る。

なんでもない日常だけど、とても幸せだ。

最近気づいた。

学校は勉強する場所でもあり、人との関わりを学ぶ場所でもあるって。

卒業してから気づくんだろうな、あの時は楽しかったなって。

高校1年生で気づけてよかった。


 体育倉庫にも行かなくなってしばらくだ。

梅澤たちともしばらく関わっていない。

俺じゃない標的を見つけていじめたりしてないだろうか。

あんな辛い思いを俺以外にしてほしくない。



 


 放課後、いつものように部活で絵を描いている。

今日はいつもはくるはずの蓮がいない。

授業が終わっていつもは橘と蓮と3人で部活に行くのだが、

今日は蓮に先に行ってくれ、と言われた。



「蓮、遅いな」



橘にそう声をかける。



「急用で帰ったんじゃない?」


「そうかな」


「・・・何?そんなに心配なの?」


「いや、珍しいなと思って」



 俺の唯一の友達、そして親友だからな。

心配にもなる。

心なしか蓮が先に行ってと言った時の顔がいつもと違う気がした。

・・・気のせいかもしれないが。



「ちょっと教室にいないか見てくるよ」


「はーい」



 部室を出て教室に向かう。

蓮のことだ、もしかしたらまた厄介なことに巻き込まれてるのかもしれない。

教室を覗くが蓮はいなかった。


 本当に帰っちゃったのかな。

蓮が行きそうなところなんてあとは・・・屋上ぐらいか。

屋上に行っていなかったら諦めよう。





 屋上の扉を開ける。

開けると蓮が梅澤と話していた。

目を疑う光景だ。

・・・なんでこの2人が話してるんだ?



 グラウンドの方を向いているので俺にはまだ気づいていない。

ソーッとドアを閉める。

だめだ、あそこに入っていく勇気がない。

耳を澄ませて話を聞いてみる。

具体的に何を話しているかは聞き取れないが、

決して悪い雰囲気ではなさそうだ。

たまに笑いも聞こえてくる。



 蓮は梅澤とどういう関係なんだ?

わからないな。

・・・もしかして、付き合ってるのか?


 ドアの向こうからこちらに歩いてくる気配を感じる。

まずい!

屋上の階段を走り降りて部活に戻った。



「た、ただいま・・・」


「おかえりー、遅かったね。なんでそんなに息切れてんの?」


「ちょっとね。蓮はいなかったよ」


「そっかー」



すると突然部室のドアが開いた。蓮だ。



「おー、遅くなったわ」


「遅かったじゃん、一馬くん探しに行ってたんだよ?」


「あ、マジで、ごめん」


「別に大丈夫だよ、ちょっと珍しかったから」


「どこ行ってたの?」



橘が聞く。



「ちょっとな」



 梅澤と会っていたことは言わないみたいだな。

まあ橘には言えないか。

なんか複雑な気持ちだ。

俺の親友と、俺をあんなにいじめていた2人が仲良くしている。



 部活が終わって電車に乗る。

橘を見送り電車に蓮と2人になる。

・・・ちょっと聞いてみようかな。



「なあ蓮」


「ん?」



蓮は流れる窓の景色を見ている。



「今日、部活に行かずに屋上に行ってただろ」


「・・・見てたのか」


「うん・・・梅澤といたよね」




「・・・」



蓮は何も答えない。



「どういう関係なんだ?」


「・・・別に何もあいつと特別な関係とかじゃないんだよ。最近よく話すだけだよ」



蓮が続けて話す。



「一馬があいつにいじめられてたことももちろん知ってるし、

どれだけ辛かったかも一応はわかってるつもりだ。

俺があいつと仲良くするのを一馬がよく思わないのもわかる。

でもさあいつも色々抱えてるみたいなんだ」



 確かに蓮と橘が仲良くしてるのはちょっと複雑な気持ちだ。



「そっか。話してよ、梅澤について」



蓮の降りる駅が近く。



「・・・また明日な」




 蓮はさっき、梅澤と仲良くするのを俺がよく思っていないって言ってたけど、

それは間違いだ。

俺はみんなと仲良くしたいだけなんだ。


 そりゃ、いじめられてたことを完全に許すことはできない。

でもだからってずっといじめのことを責めようと思っていない。

それは橘も梅澤も同じだ。

どちらも俺をいじめていた。


 でも橘はいじめに関して謝ってくれたし、

今なんて俺の彼女だ。

梅澤だってただ一言、ごめんって、謝ってくれればそれでいいんだ。

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