第26話 カミングアウト


 家に帰ってから両親に停学になった理由を散々聞かれた。

俺は全て話した。

橘という彼女がいること、

停学に関して俺は悪くないということ、

橘のお父さんが停学をなんとかしてくれること。


 ・・・橘にいじめられてたことは言わなかった。

いじめられてた子と付き合うなんて普通はおかしいしな。


 両親は事情を把握してくれたみたいだが、

まだ頭の整理が追いついていないみたいだった。





 夜、ベッドに寝転んで今日のこと、そして明日のことを考える。

橘と喧嘩っぽいことになったのは今日が初めてだったな。

でも誤解が解けてよかった。

こういう些細なことから壁が生まれて別れる原因になったりするのかな。

気をつけないと。


 そして学校から連絡もあった。

「明日の朝、校長室に来てください。今回の関係者を全員揃えて話をします。親御さんは来なくて大丈夫です」


 明日の朝に校長室。

集められるのは俺と橘と蓮、そして梅澤たちとバスケ部のキャプテンたちかな。

本当に全員集合だな。


 でも心配なことが多すぎる。

橘も梅澤に怒ってたみたいだし、仲が悪くなるかもしれない。

それに俺だってバスケ部のキャプテンたちに刃向かったんだ。

目をつけられるかもしれないな。


その時は蓮に守ってもらおう。


・・・俺はいつも守られてばっかりだな。


蓮にも橘のお父さんにも。


 もっと成長しないとな。

そんなことを考えているとなかなか眠れない。

でも眠れない時は無理に寝なくてもいいんだ。









 翌日、玄関でローファーを履く。

その姿を母親が見守っている。


「じゃあ、行ってきます」


「頑張ってね」


「何をだよ」


 冗談を挟みつつ、

いつものように学校へ向かう。

いつものように電車に乗って学校へ向かう。

いつものように学校までの長い1本道を歩く。


 周りは学校に向かう学生でいっぱいだ。

みんな当たり前だけど教室に向かうんだろうな。

俺は校長室に行くけど。


 校門を通って昇降口で上履きに履き替える。

そして普段とは逆の廊下に進む。





 校長室前。

あー入りたくないな。

絶対に中はやばい空気だろ。


 意を決してそろっと扉を開ける。

ガラガラッ、扉を開けると俺以外全員揃っていた。

奥に校長先生が、そして部屋の右側に蓮と橘、左側に梅澤たちとバスケ部のキャプテンたち。

バスケ部のキャプテン達は絆創膏を貼っていたりして怪我が痛々しい。

比べて蓮は綺麗な顔をしていて無傷だ。

ボコボコにしたんだろうな。


 一斉に俺に視線が集まる。

なんとなく左側から圧を感じる。

空気を察して蓮や橘のいる右側に移動する。


「全員揃ったみたいだね、それでは最初から話を聞いていこうかな」


昨日の出来事を最初から振り返っていくみたいだ。


「まず、どういう経緯で喧嘩になったか教えてくれるかな」


すぐにバスケ部のキャプテンが口を開いた。


「加藤が俺たちを呼び出して、橘さんに近づくなって脅してきたんです」


 何言ってんだコイツ。

真逆じゃねーか。

俺が反論しようとすると蓮が先に口を開いた。


「いや、逆だろ。お前らが呼び出して脅したんだろーが」


 いきなりこんな空気になるとは。

ピリついてるな。


「まあ、落ち着いて。それより橘さんに近づくなとはどういうことかな?」


校長先生が場を収めて事情を聞いてくる。


「それは」

「加藤は橘さんのストーカーで橘さんは困ってるんです」


 俺の声をかき消して上からバスケ部のキャプテンが大きな声で話してきた。

・・・そんなことより俺が橘のストーカー?

マジで何言ってんだコイツは。


 そうかコイツ、俺と橘が付き合ってるって知らないのか。

この場でそれを知ってるのは蓮ぐらいか。

蓮は俺と橘が付き合ってるってなんとなく気づいてるみたいだし。

確かに付き合ってるって知らなかったら俺が一方的に橘に迫ってるように見えるか。

橘は美人で俺は地味だしな。



バスケ部のキャプテンが続ける。


「加藤はストーカーしたり人を脅すような最低な奴なんですよ。橘さんも困ってるでしょ?」


 視線が橘に集まる。

なにを言うんだろう。

俺も橘を見つめる。



視線が集中している中、橘が口を開いた。





「いや、困ってない。困らせてるのはあなたでしょ?」





そう言って橘がバスケ部のキャプテンを冷たい視線で見ている。





「ストーカーしてるのはあなたよ。一度告白を断ったのに私につきまとってきて」





 バスケ部のキャプテンが驚いた顔をしている。

橘が急に俺の腕に抱きついてくる。





「それに私たち付き合ってるの。だから変な勘違いはやめてくれる?」





 バスケ部のキャプテンだけでなく、梅澤たちも驚いている。

今まで隠してたのについに言ったな。

そうだよな、まさか橘が俺みたいなのと付き合ってるって思わないだろうな。


校長先生が話し始める。


「えー、ということは、君が嘘をついているということでいいかな?」


 そう言ってバスケ部のキャプテンを見る。

言葉がでないみたいだ。

梅澤が口を開く。


「京子、なんでこんなやつと・・・だってもともと一緒にいじめてたじゃん!」


「いじめてたことは私も反省してるし、許してくれた。だから里奈もそんなことするの、もうやめて」


場が静まり返る。


「えー、梅澤さん達の勘違いだったってことでいいかな?これ以上話し合うとまた喧嘩になりそうだね」


「本当は停学なんだけど、今回は特別に謹慎ということにします。今日は家にいて明日からいつも通り学校に来てください。もう喧嘩しないようにね」


校長先生が解散を告げる。


「いこ?蓮も」


 橘がそう言って俺の腕を引っ張る。

梅澤たち、バスケ部のキャプテンを置いて校長室を出て行く。

梅澤はまだ話したいことがありそうだったけど、橘は気にせず出て行った。





3人で長い一本道を歩く。


「蓮、なんで私たちが付き合ってるってわかったの?」


「なんでって、そんなに仲よかったらわかるだろ」


 それはそうか。

そんなに仲良くしてたかな?


「俺が行ったあと、大丈夫だった?」


「大丈夫だったよ。ボッコボコにしてやったよ」


確かに傷だらけだったな。


「それより一馬、大丈夫か?敵をいっぱい作ったんじゃないか?」


「・・・大丈夫だよ。2人がいるから」


 橘も蓮もいる。

よくわからないけど、多分大丈夫だろう。

でも、良かった。

また3人でこの道を歩けて。

明日からどうなるかわからないけど、大丈夫だ。


心強い味方が2人もいるから。

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