第6話 二人だけの秘密


 7月に入った。夏が近づいてきている。

半袖を着たり、長袖を捲るなど制服も夏仕様に変わってきている。


誤解が解けたあの日から数日後、俺と橘の距離は縮まった。




朝、教室に入ると隣の席の橘が


「お!おはよう」


「おはようー」


朝会うと挨拶をするような仲になっていた。


「明日の数学の時間、小テストあるらしいよ」


「まじ?私全然勉強してないわ」


 なんだか変な感じだ。

俺から橘に話しかけるなんて今まであり得なかった。

まさかこんなに橘と仲良くなるとは思ってなかった。

入学したての俺が見たらびっくりするだろうな。

仲良くなれたのは嬉しいことだが、俺は一つだけ気になっていたことがあった。



「梅澤たちって、あの後に俺のこと何か言ってた?」



 あの時、絵を破られて梅澤に反抗してしまった。

あれから体育倉庫には行ってないし、出来るだけ避けるようにしてきた。


「怒ってたみたいだけど」


 一気に血の気が引く。

やはり反抗したのがまずかったか。


「まあ、大丈夫だよ。私がなんとかするから。」


 頼もしい。頼もしすぎる。

そんな橘の頼もしい言葉に胸を撫で下ろした。





 放課後、明日の数学の小テストのために少しだけ橘に勉強を教えてもらう。

橘は普通に頭がいい。全然勉強してないって言ってたが小テストぐらいなら勉強しなくても大丈夫なはずだ。


 教室には俺と橘以外誰もいない。屋上の時を思い出す。

そよ風が窓から入ってくる。夕日が綺麗だ。


「ねぇ、聞いてる?」


「あぁ、ごめん」


 橘は最近口調が優しくなった。

前までなら「おい!聞いてんのか?」と言われてただろう。

これも仲良くなったおかげかな。



突然、



「京子!全然来ねぇと思ったら何してんだ?」



 教室の入り口から橘を呼ぶ声が聞こえた。

梅澤たちだ。


「お前・・・」


俺を見つけた梅澤が鋭い眼光で睨みつけてくる。


「おいおい、こんなとこで何してんだ?」


梅澤が睨みながら近づいてくる。


「あの時以来だな?」


 やはり怒っているみたいだ。

今にも手を出してきそうな雰囲気に背筋が凍る。



 突然、橘が俺の肩をガッと組んだ。

あまりの至近距離にドキッとする。


「私の課題やらせてたんだー」


「それと大丈夫!私があの後ボコボコにしといたから」

ボコボコにされた記憶はない。庇ってくれてるのか?


「あと、こいつは私専用ってことに決めたから」

そんなこと初めて聞いたぞ。


「ふーん」


梅澤が俺をジロッと睨みつける。


「まあいいわ、京子、こんなやつほっといて行こうぜ!」


 あー助かった。

どうやら俺は橘専用ってことで手を出せないようにしてくれたみたいだ。

橘が梅澤たちと教室を出て行く。

教室を出る前、橘が俺にしか見えないように手を振った。

俺も橘に小さく手を振った。


あいつらは知らない二人の関係。なんだかそれが嬉しかった。

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