仮想勇者アノードスフマート

坂岡ユウ

第一話「サイバー世界の新英雄(ニューヒーロー)」

Part 0「序章 — はじまりはじまり」

 —— 35歳会社員が誹謗中傷の疑いでサイバー自警団に告発される。


 あの頃は、“僕”こと山崎裕翔がサイバー自警団と同じような役割を担うなんて想像もしていなかった。オンライン授業の合間に仲間と仮想空間で遊んで、よくわからないゲームをして、時々FPSやRPGで幻想上の世界を救って、そんな日々が永遠に続くと信じて疑わなかった。


 本当は続いてほしかった。当たり前の日々が、なんら変わらない友情が。でも、ある運命が僕らの人生を大きく変えてしまったの。本当にそれが運命かどうかは知らないよ。だけど、信じないと、闘い抜かないと、僕にとっては次のステージへ進めないって。だから、運命。


 この仮想空間の秩序を守り抜くために。僕らの正義を為すために。


 「裕翔くん、蓮くん、行きますよ」


 リーダーの藤吉あやめがこちらにサインを送っている。僕の答えはこれに決まっている。思いっきりのサムズアップ。


 「オッケー。じゃあ、今回も無事に帰ってきましょうね」


 さらに、僕は仲間の森田蓮にサインを送る。蓮は個人装備の銃を構え、すでにやる気満々だ。


 「俺は俺の仕事をこなすのみ。お前ら、足手まといになるなよ」


 そして……あやめは次元の扉を開くキーを入力した。このキーを入力すると、五秒間だけディスプレイに仮想空間すべてにアクセスできる扉が出現する。僕らは身のまま、ここに飛び込んで勇者に変身し戦うってわけだ。


 「良心の波、アノードスカイ!」

 「燃える弾丸、アノードバーニング!」

 「ネットネイティブプロフェッショナル、アノードグラファイト!」

 「戦うメディアリテラシー。仮想勇者ゆうじゃアノードスフマート」

 「じゃあ、行くぞ」

 「レッツゴー!」

 「オー!」


 今日も三人の若者が仮想空間へ飛び込んでいった。なぜ僕らがこうなったのかというと、それはこれからの話だ。

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