第155話 魔狼族

「なっ…!!お前たち、逃げろ!!!」




「させない。」




俺は魔狼族を囲うようにして結界魔法”絶対不可侵結界”を展開した。




「くっ…!!…俺たちをどうするつもりだ?」




「話を詳しく聞かせてもらおうか。内容次第では見逃してもいい。」




「…そう言って全員殺すんだろ?」




「勘違いするな。俺はお前らがいつどこにいてもすぐに殺せる。」




これは脅しではなく本当のことだ。


既に”レーダー”に”ピン立て”しておいたので、いつでも近くに”転移”して即座に殺せる。




「っ…!!分かった…」




「まずは穴の中にいる四人を連れて来い。」




「ちっ!!気付かれてたのか…」




先程から三人で目配せしていたのは、おそらく穴の中にいる四人を逃がすためだろう。


しかし俺は見逃してあげるほど甘くはない。


一人の魔狼族が穴の中に入り、四人を連れて出てきた。




「なっ!誰だお前は!!」




四人も俺を見るや否や戦闘態勢をとった。




「落ち着いて!!この人は…魔王候補者のダグラス様だ…」




「…っ!!」




「そこのお前、お前らの事情を説明しろ。」




俺は”魔力視”のユニークスキルを持つ魔狼族を指名した。


おそらく七人の中で一番冷静で、判断が早いと判断したからだ。




「…分かりました。おいらたちは魔狼族の長、魔王候補者のコルム様の命令でここに来ました。」




「おいチェイス!!」




「兄者は黙ってて!!おいらにはあんなクズな長よりも兄者たちの方が大切なんだ…!!」




「チェイス…」




「あー…ジーンとしてるところ悪いが続けろ。具体的にどんな内容の命令だ?」




「は、はい。”既に二人分の魔王因子を持つダグラス様を喰えば最強になれる!!まずは精神を壊すために奴の大事な物や人を殺してこい!!”というものです。」




「…そうか。」




魔王候補者コルムを殺そう。


俺の大切なものを奪うのは絶対に許さない。




「魔王候補者に選ばれる前から乱暴な人でしたがここまで酷くなるとは…」




ここにいる魔狼族を見る限り、雑に扱われているのは一目でわかる。


痩せ細った身体に汚れた衣服…おそらく命令を遂行し終えるまで帰れないのだろう。




「…お前ら、どうしてそこまでして暴君の長に従う?」




「家族が…人質に囚われているんだ…!!」




「なるほどな…」




反逆しようにも家族の命が危うく、その上魔王因子を持つ者に勝てる見込みも少ない…


実質魔狼族はその暴君の長に奴隷にされているということだ。




「…魔狼族は皆その長が憎いか?」




「え?それはもう酷い憎まれっぷりですよ。」




「お前等に提案があるんだが…聞くか?」




「…はい。」




「ヴァルハラ帝国に移住しないか?」




「なっ…!」




「ここは色々な穏健派魔族が共同で暮らしている国だ。治安はいいし、給料も出すし、何より家族全員で幸せに暮らせる。」




というのは建前で、本音は魔狼族が信用できる種族かどうか判断するためだ。


長寿で知識量が多く狡猾だということなので、どれが本当の目的か分からないから怖いのだ。




大きな音を立てて作業をしていたのは、敵である俺にコルムを殺させるためだったのかもしれない。


…もしくは同情を誘ってヴァルハラ帝国移住の提案を受け、下見の名目で結界内に侵入して民を殺すか。




「…少し兄者たちと話をさせてください。」




「分かった。」




数分後


何回か激しい口論になっていたが、結果が決まったようだ。




「ダグラス様、ヴァルハラ帝国の様子を見させていただけませんか?」




「…分かった。では全員目を瞑れ。」




「…え?」




「聞こえなかったか?目を瞑れ。」




「は、はい。」




結界内に入れ、民を危険に晒すわけにはいかない。


なので、俺は七人の目に”千里眼”のスキルを付与した。


これでヴァルハラ帝国内の様子が見られるだろう。




「こ、これは…?」




「お前らはまだ信用できないから結界の中に入れるわけにはいかない。悪いが”千里眼”のスキルで我慢してくれ。」




「なっ…!!”千里眼”だと!?」




「あの書物に書いてあったのは事実だったんですね…!!」




「…ん?」




”千里眼”はそれほど貴重なスキルだったか?


弓使いが行使する、より遠くを見れる”イーグルアイ”の上位互換程度としか思っていなかったが…




「あ、失礼しました。おいらたちの国に弓矢が百発百中のエルフの童話があって、そこに”千里眼”のスキルが出てくるんです。」




「へぇ…それは面白そうな童話だな。」




「はい!それで、下位互換の”イーグルアイ”は知っていますが”千里眼”は伝説とされていたので…」




「なるほどな…それでヴァルハラ帝国の様子はどうだ?」




「みんな…笑顔だな。」




「それに人間もいる…?」




「ああ。俺は人間と魔族が共存を目標にしてるからな。」




「おいらも人間と仲良くなりたいです!!」




そんな会話を続けながら、魔狼族たちは細かく内部の様子を観察していた。


そして十分が経ったので、”千里眼”の付与を解除した。




「それで、移住の件はどうする?」




「…もう一回兄者たちと話をさせてください。」




「分かった。」




今度は口論になることもなく、数分で結論が出たようだ。




「是非おいらたち魔狼族もヴァルハラ帝国に住まわせてください!!ダグラス様の配下になります!!」




「そうか…!分かった。じゃあお前らの家族や他の魔狼族を助けるためにコルムとやらを殺すぞ。」




「はい!!」

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