第148話 死神

『なっ…!!』




俺はその異様な光景を見て、息をのんだ。


巨大な鎌を持ち、漆黒のローブを着たスケルトンが地面から出てきたのだ。




「うわぁぁぁぁ!!!こ、こいつだあああ!!!!!」




男がガタガタと身体を震わせ、畏怖しだした。




「死神…なのか?」




「如何にも。それで…死者の魂を弄んだのは貴様か…?」




「…そうだと言ったら?」




死神が放つ禍々しいオーラが一瞬強まった。


その波動で重罪人の男は気絶したようだ。




「汝と手を組みたい。」




「…ふぁ?」




斜め上の回答に驚き、あほみたいな声を出してしまった。




「ぬ…聞こえなかったか?我は汝と手を組みたいのだ。」




「…手を組んで何をするつもりだ?」




「我を封印したあの憎々しい神を殺すのだ!!」




「…その神がどういう性質かわからない以上は協力できない。」




ここは協力した方が命が助かる可能性は高まるだろう。


しかし、もし死神の言う神が俺を転生してくれた者ならば、恩に仇で返すわけにはいかない。




「ぬ…確かに汝にとっては赤の他人だな…」




案外話が通じるようでよかった。




「汝のその魔力…魔王候補者か?」




「あ、ああ…」




「そうか…汝は死の魔力についてどれくらい知っているのだ?」




「っ!!」




まさか死神の口から魔王候補者やら死の魔力やらといった言葉が出るとは。


ここは事実を話すと同時に情報を引き出したい。




「…この魔力で包むことで相手を殺せること、魔物に向けて放出することで能力値が上がることくらいだ。」




「ぬ、この魔力の根源については知らないのか?」




「あ、ああ…」




「そうか…それは我の魔力だ。正確には我の魔力の残り香だ。」




「なっ…!!」




いや…確かによく見たら死神が纏っている禍々しい魔力は、まるで死の魔力に似ているような気がする。


それも俺の魔力の何百倍も濃密なものだ。




「魔王候補者の称号については何か知っているか?」




「いや…何も知らなくてすまない。」




「良い良い。…魔王候補者とは、我が与えた称号だ。あの憎々しき神に対抗できる素質を持つ者を選んでいるのだ。」




「…じゃあ勇者はまさか?」




「うむ。我を殺す素質のある者をあの憎々しき神が選んだ者だ。」




書物には勇者は魔王を殺す者、魔王は勇者を殺す者として召喚されると書かれているが、それなら両方が死んだ時点で二度と勇者や魔王は誕生しないはずだ。


それにも関わらず現に新しい勇者と魔王が誕生しつつあり、矛盾している。




その定説の間違いはそういうことだったらしい。


まさか勇者と魔王の誕生の原因がここで明らかになるとは思わなかった。




しかし、同時に古の大戦における神陣営が勇者、悪魔陣営が魔王として誕生すると書かれていた。


…だが魔王を生み出す元である死神からは悪魔のような感覚を感じない。




「死神は…もしかして神なのか?」




「うむ。正確には”元”神だがな。」




やはり禍々しい魔力の中に感じた神々しさは勘違いではなかったようだ。




「その…死神はどうして神じゃなくなったのか聞いてもいいか?」




「良いぞ。天界に関わらず人の世でもあるようだがな、一言で言うと権力争いだ。」




神の中にある序列の話だろう。


しかし神はもっと高潔な存在だと思っていた。




「我は神だったころ、死んだ者の魂の行く末を決める役割を担っていた。そして勤勉に働き続け、ついに神の頂にいらっしゃる全能の神、主神ゼウス様に認められたのだ。」




今までの神話生物もそうだが、前世の世界の神話とこの世界の神話は似ているところが多い。


名前に見た目の特徴、それに弱点まで…




『…この世界と前世の世界は…何か繋がりがあるのか?』




非常に気になるが、前世の世界に帰れる方法があったとしても興味はない。


今は死神の話に集中しよう。




「そしてあの憎々しき神…イシスがそれをよく思わず、我を陥れようとしたのだ!!!」




「イシス…だと!?」




イシスとはこの世界で信仰されている、魔法の神だ。


そして、同時に人間至上主義者で亜人を迫害するよう神託を与えている神だ。




もしイシスを殺すことで亜人の迫害に滑車がかからないようになるのなら、手を組むのもありかもしれない。




「…手を組む提案に興味が湧いた。もっと細かく聞かせてくれないか?」




「そうか…!!ならば我の記憶を見るがよい!!」




そう言うと、死神は鎌を振りかざした。




「お、おい!ちょっ…!!」




「死にはしないから安心しろ。では行くぞ!!」




死神の鎌が俺の胴をすり抜けた。


すると、同時に酷い頭痛に襲われた。




「ぐっ…!!何を…!!」




「我の記憶に行ってきてもらう。そこであの憎々しい神を見てくるがよい。それはきっと汝のために…」




俺は死神の言葉を最後まで聞く前に意識を失った。

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