第149話 追憶
『俺は…死神の記憶に入ったのか…?』
目を瞑っているのか、天界の特徴か、目の前が真っ暗で何も見えない。
「…エル…サリエル!!」
「ぬ…マリアか。」
どうやら前者だったようだ。
そして、俺は神時代の死神の身体に入っているらしい。
しかし支配権は死神であるサリエルの方にあり、意識しても俺は身体を動かせないようだ。
『ん…!?』
現状を把握し終えて前を見ると、そこには俺を転生させてくれたあの神様がいた。
あの時聞きそびれてしまい、それに今も同じ名前か分からないがマリアというらしい。
死神も魂の輪廻を扱っていたと言っていたし、同僚だったのだろう。
「それよりサリエル!!たまには休まないよだめよ!!」
「問題ない…我は至って正常だ。」
「現に今意識を失っていたじゃない!!転生神への出世の夢に手が届きそうだからって無理しちゃだめよ!!ここは私がやっておくからあなたは少し休みなさい!!」
「ぬ…そうか…じゃあ少しの間頼む…」
そう言うと、再び目の前が暗くなった。
サリエルは書類の処理をし続け、過労で倒れていたようだ。
『サリエルを死神に仕立てたのは確かイシスだったか…?早いうちに顔を認識しておきたいな…』
…それにしてもこの時間が暇でじれったい。
下手にスキルを行使すると記憶から離れて現実に戻ってしまう可能性があるため、ただサリエルが目を覚ますのを待つだけなのだ。
『まだか…?』
そう思っていると、視界が明るくなり始めた。
「あ、おはよう!少しは休めた?」
「うむ。これであと数週間は活動し続けられそうだ。」
「もう…またそういうこと言って…パートナー何だから頼りなさいよね?」
「うむ。」
マリアとのやり取りや周りの様子を見て分かったことがある。
それは、基本二人一組で行動しているということだ。
「ねえサリエル、今日も成績表見に行かない?」
「うむ…では行こうか。」
二人は書類を一旦整理した後、たくさんの神々が集まっている中央の巨大な看板の前に向かって飛び出した。
そこにあるのは各ペアの業務成績表のようで、成績の高いペアから順番に出世できるらしい。
『酷な世界だな…』
人混みをかき分け、少しずつ成績表に近づいてきた。
そして、ついに目の前に来た。
「私たちの名前は…えっと…」
記載されている数が多く、見つけるのになかなか時間がかかる。
表を見て察するに、最下位は1500位で出世ボーダーは15位以内。
…かなりの高倍率だ。
「…っ!!サリエル!!私たち12位よ!!!31位も上がってるわ!!!」
「うむ!!苦労の甲斐があったな!!」
マリアと喜んでいると、後ろから何やら嫌な視線を感じた。
サリエルもそれに気づき、即座に振り返った。
「イシス…何の用だ?」
「…ふんっ!どうせお前らはこれから堕ちるんだ。今はせいぜい楽しんでるんだな!」
そう言うと、彼はどこかへ去っていった。
『今のがイシスか…建てられてる石像とだいぶ違うな…』
魔法国家に建っている石像は程よく筋肉のついた体に理知的な顔をしていた。
しかし、実際は酷く痩せ細り、目の下に濃いくまができて根暗な雰囲気だ。
「…堕ちるとはどういうことだ?」
「イシスのことなんて気にしなくていいわよ!!帰って続きをやりましょう!!今のペースなら最低ラインの7位に入れそうだわ!!」
「…うむ!」
拠点に帰ると、先程まで書類が積みあがっていた机がきれいになっていた。
『誰かが掃除したのか…?でもここには二人の他に誰もいないが…』
「…っ!!私たちの書類が…なくなってるわ…!!」
「うむ…このままだと処理ミスで大きく減点になってしまうな…」
「もしかしてイシスが…?」
「分からぬ…がその可能性が高い。」
先程の”堕ちる”とはこのことを言っていたのだろうか。
…なんだか嫌な予感がする。
「神サリエル、並びに神マリア。至急天空の間に参上せよ!」
「今のは…ゼウス様のお声!?どうして私たちが…」
「分からぬ…とりあえず参上しよう。」
「そうね。」
二人が上空に飛んでいくと巨大な門に着いた。
そしてそれを開けると、まるで裁判所のような空間に入った。
「なっ…!どうして上位神様たちもお集まりになってるの…!?」
「マリア、今は落ち着いて対応しよう。」
「そうね…」
「神サリエル、こちらに。」
「神マリア、こちらに。」
二人とも別々の方に案内された。
マリアは聴衆側、サリエルはどう見ても被告人側だ。
裁判長の主神ゼウスが大きな木槌を打ち付けた。
「これから裁判を執り行う!被告人サリエルが出世のために禁忌を犯したという訴訟を受けた。」
『なっ…!何もしていないだろう…?』
「証人イシス、前へ。」
「はい。」
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