第23話 終結
ヴァーリ軍は今アンデッド軍最先端のスケルトン集団と戦っている。
ここの騎士たちは日々鍛えられているのでアンデッド軍を圧倒している。
しかし、相手は一方に減る気配がせず、こちらの騎士たちも疲弊してきた。
『このままじゃじり貧だな…』
父さんは後ろに魔法騎士団を控えさせた。
おそらく低ランクの魔物は物理で倒すことでこの後来る高ランクの魔物に光属性魔法を温存しているのだろう。
この戦いの鍵となるのはいつ光属性魔法を行使するかに左右されると思われる。
戦力はヴァンパイアを除き拮抗しているため、行使が早すぎれば光属性魔法が尽きて高ランク魔物に倒され、遅すぎれば前衛が全滅してそのまま隊列が崩れ倒されるだろう。
勝利できるかはその鍵を握っている父さん次第である。
『父さん責任重大だな…よし、できるだけ手伝おう!
…でも危ないから家から出ないように言われてるんだよなぁ。ばれないように行くか!』
俺は土属性魔法で人形を作り、”偽装”スキルでその人形がダグラス=アイザック本人に見えるようにした。
姿の”偽装”や装備等の準備を終え、森林の中腹辺りに”転移”すると真下にヴァンパイアがいた。
”魔力探知 鑑定”をすると、ヴァンパイアはもう眷属や魔物は生成していないようだがステータスは全快していた。
『少しでもステータス減ってたら若干とはいえ楽になってたのに…まあいいや。
父さんたちが勝てるように間引いておくか。』
俺は父さんたちとヴァンパイアのちょうど中間あたりに”転移”し、消費MP10倍で”ハイヒール”を行使し、ざっと敵全体の1/10は倒した。
何やらヴァーリ領の方が騒がしい。
”転移”して見に行くと、
「何だったんださっきの光は…?」
「…あれはきっと神様だ!神様が救いの手を差し伸べてくれたんだ!」
「いや、でももしかしたら新手かもしれない…」
「何はともあれアンデッド軍の数が減ったのは吉報だ!」
などとどよめきが広がっていた。
『やべ。思ったより光が強くてばれてた…まあ俺がやったとは気づいてないしいっか!』
MP回復ポーションを飲みMPが全快したので再び行こうとすると、爆発音が聞こえた。
急いで見てみると、ヴァンパイアが前線に出て火属性魔法を使っていた。
「俺の配下を何度も何度も何度も何度も倒しやがって!!!!!誰の仕業だ?出てこい!!!!」
ご指名を受けてしまったが、生憎俺は出るわけにはいかない。
『あのヴァンパイアと渡り合える人はいるのか?まさかあいつ一人に全滅させられないよな…?
どうしよう。完全に俺のせいでお怒りだ…』
するとそこに、エリザさんが現れた。
『確かにギルドマスターを務めているから相当の実力者だろう。』
『鑑定』
名前 エリザ=ヒューストン 種族 エルフ Lv.207 EXP 16950
状態
呪い(全ステータス、身体能力30%低下)
装備
耐火のローブ 世界樹の杖 細剣ディバイド
ステータス
HP 89600/128000 MP 127400/182000 TP 67900/97000
スキル
・魔法
風属性魔法S 光属性魔法A 空間魔法A 結界魔法B
・武技
細剣S 短剣C 弓A 体術B
・その他
デバフ耐性C 危険察知B 忍耐B
ユニークスキル
アイテムボックス
称号
エルフの戦士(全ステータス+10%)
ヴァンパイアを上回っているが、状態”呪い”とは何だろうか。
まあ実戦経験も豊富だろうし、ヴァンパイアに奥の手がない限りおそらく勝てるだろう。
「何のことだかわからないけど私が相手をさせてもらうわ!」
「とぼけるな!俺はそいつに復讐するまで許さん!」
「本当に知らないわ。…私で我慢してくれないかしら?」
「いいだろう…お前を殺して魔物の餌にでもしてやるよ!!!」
「ちょっと待って。」
「…なんだ?」
「街の近くだと全力を出せないわ。すぐ私を倒してしまったらつまらないだろうし森林の中腹で戦わない?」
「そうか。確かにすぐに殺してしまってはつまらない。…いいだろう!ついてこい!」
エリザさんのおかげで敵戦力は二分されヴァーリ領にはスケルトンキングが率いるアンデッド軍、森林中腹にヴァンパイアという状況になった。
『ヴァンパイアがいなければ耐えられるだろう。これならいけそうだな…』
そう思ったのだが、なんだか嫌な予感がする。
一応力を蓄えておこうと思い、手助けせずに見守っていた。
ヴァーリ領の方はヴァンパイアにやられた人が多く痛手だが、父さんは光属性魔法の使用を開放したことで体制を立て直し圧倒している。
エルザさんの方は少し手間取っていた。
ヴァンパイアの闇属性魔法Sが厄介でなかなか攻撃ができていない。
デバフを受けると圧倒的不利になるため光属性魔法で打ち消しながら戦っている。
徐々にエリザさんが優勢になり、とうとう細剣Sスキルでヴァンパイアを倒した。
『やった!あとは残った魔物を倒すだけだ!なんとかなりそうだな…!!』
エリザさんがヴァーリ領の方に加勢しに行くと、父さんが話しかけた。
「あいつを倒したのか…?」
「ええ。」
「よくやってくれた!!!ありがとう!!!あとはここの魔物を一掃するだけだ!!お前ら!気を抜くなよ!」
「はい!」
テュール兄さんとノンナ姉さんを温存していたようで、二人だけでスケルトンキングを倒した。
「二人ともこんなに強かったんだぁ…すごいなぁ…」
「俺たちの勝利だぁぁぁ!!!うおぉぉぉ!!!」
騎士たちが勝利の雄たけびを上げた。
『思ったよりも楽勝だったな。』
そんなことを思っていると、突然森林の深くで大きな爆発が起こり途轍もない魔力波が発生した。
「な、なんだ…?」
「まずい!みんな、全力で防御して!!!早く!!!」
エリザさんの指示のもと皆が防御の形をとると、巨大な衝撃波がきた。
彼女の防御結界のおかげで皆無事で済んだ。
しかし、彼女が倒れていた。
「…っ!!エリザ!どうした!」
父さんの呼びかけに応答がない。
その衝撃波を防ぐためだけに膨大なMPすべてがなくなり気絶したようだ。
「ほう。今の一撃を耐えたか。」
「…っ!?」
突然上空に魔族が現れた。
そして皆、本能的に敵わないと感じ戦慄した。
「今ので戦意を消失するか。ジェレミーが死んだと思って来てみれば…弱者ばかりではないか。つまらん。」
そういって魔族は消えた。
俺もあいつに勝てる気がしなかったので助かった。
『あの魔族は以前夢に出てきた奴とそっくりではないか…?』
突然あの悪夢を思いだし、恐怖した。
『あの悪夢の展開を回避…できたのか…?』
緊張が解けて尻餅をついた。
いろいろ気になることはあるが、ひとまずは勝利の余韻に浸ろうと思う。
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