迫る、初配信

言わずと知れたアニメーション会社、東都アニメーション。日本人がオタクをしていればどこかで通ってきたアニメを作ってきた東アニが、立ち上げた新プロジェクト、『ライムライト』。


その宣伝にあたり、東アニは一切。つまり、どういうことになったかというと。


引くほど手の込んだ作画の、「美しい」としか感想が出てこないプロモートアニメーション。そこに、クレジットには「メンバーの一人が作曲」とあるが、その実超人気ボカロPのAyaが作曲したインスト曲。東都アニメーション公式つぶやいたーと公式WeTubeに投稿されたその動画は、即座に拡散され、日本のオタク達を大いにざわつかせたのだった。


全く仕込みなしだったにも関わらず、沢山のクリエイターが反応したのも大きかった。そしてその結果、東アニ公式WeTubeチャンネルの『limelight members』と題うった配信の待機所に3.5万人が集まった、というわけである。


そしてとある都内のスタジオで、まだ増え続けているその数字を眺めて、


「つまりこれ、絶対失敗できないやつ……!」


と呟く少年が一人。隣では少年とよく似た少女が青を通り越して白くなった顔色で頷いていた。


そう。今日が『ライムライト』メンバーのお披露目配信なのだ。開始時間が30数分後に迫る中、環は記憶を3週間前に遡らせた。





「はーい!初コラボは今いる人全員で、『ライムライト』公式チャンネルでやるのが初でやることに決まってますー!コラ、人の話を聞けー!!」


と、朝はぜ先生が言うと、Ayaさんから質問が飛んだ。


「はーい、質問でーす!いつどこでやるんですか!」


「場所はウチの社内のスタジオ!東アニとしてもこれだけのプロジェクト、失敗できないので機材諸々含めすごいスタジオになった!らしいです!」


朝はぜ先生は続けて、


「いつ、は、みんなと相談してからかな〜。みんな忙しいだろうし、スケジュール調整必要でしょ?あ、あとで向かう半年くらいのスケジュールをマネージャーにご提出下さい」


「スケジュールは了解っす!僕らはしばらくヒマなので、1ヶ月以内ならほぼいつでも大丈夫っすね」


と、『くらうん』のりぃふさん。


「僕も締め切りしばらーく先だから、いつでも」


と言う東方さんに、僕と夜月が、


「僕らは土日だったらいつでも大丈夫です」


と続く。Ayaさんがさらに続いて言う。


「私も曲上げたばっかりだから、結構暇かも。『√』の2人と一緒で、できれば土日がうれしいんだけど」


後は朝はぜ先生だけだったのだけど、朝はぜ先生はプルプルしながらこう言った。


「私だけ!?私だけなの、今忙しいの!?」


何でも先生は東アニで引き継ぐ仕事にイラスト依頼を片付けなければいけないらしく、調整の結果、3週間後の土曜日、午後9時から初配信を行うことが決まったのだった。





「つまりこれ、絶対失敗できないやつ……!」


と呟いた僕に答えたのは、東方さんだった。


「僕なんか配信のはの字も知らないんだけど……サンテンハチマンニン……?」


東方さんの目に光がない。この3週間、メンバーの人達とかなり通話したのだけど、東方さんは「大人だ……!」って感じの人だった。29歳と言っていたけれど、お洒落な銀縁眼鏡に緩いパーマの掛かった黒髪は、学生と言われても通るほど若々しい。



「ちょっとこの数は……死ぬかも……」と続いたのはAyaさん。そうそう、Ayaさんと話した時、めちゃくちゃびっくりしたのだった。


僕と夜月は、日本で同率優勝くらいに有名な私立大学の附属高校に通っている。そのまま内部進学するつもりなこともあって『√』、『ライムライト』に時間を割けているわけだ。


おっと、ちょっと話が別になってしまった。そう、Ayaさんが僕達が進学予定の大学に通う大学3年生だったのだ。僕が高校3年だから、1年間Ayaさんと被るわけである。


アーモンド型の目をくりくりと動かしながらヘイゼルの髪を揺らす姿が印象的なAyaさんは、垢抜けた明るい人だ、という印象だ。「曲と全然違うでしょ?」とは本人の談。



「「その点、『くらうん』さんはいいですよね……この数に慣れてるもん」」


東方さんとAyaさんが唱和すると、『くらうん』の3人、りぃふさん、めいかさん、ふぃるさんは苦笑して答えた。


「いやいや、慣れても緊張しますって。やっぱコケられないですし、初配信で」とりぃふさん。


「……緊張しいですよ、俺たち」とめいかさん。


「さっきから心臓痛いんすよ〜」とふぃるさん。


『くらうん』は、小学校からの仲良し3人がメンバーの歌い手ユニットだ。超人気歌い手グループであり、その人気は地上波まで進出したほどだ。


女子人気が非常に高いと聞いていたのだけど、自分で見てみると全然男子でも楽しんで見てしまいました、と通話の際に伝えてみると、


「!?ハッ、野生の男性ファンだ…!囲え、囲ええぇぇぇぇ!!」という、「あれ、逆じゃね?」という反応を貰ってしまい大笑いした、なんてことがあった。


3人とも、優しい近所のお兄さん、といった感じ。「今度ウチのチャンネルにも来てね〜!」と再三誘ってもらっているので、そう遠くないうちにお邪魔してみたい。



「でも、リアルな話皆さんと知名度違いすぎて不安しかないんですが……」


と、僕が言うとそれに答えたのは朝霞さんだった。


「そうかなぁ……?この3週間でまた再生回数伸ばしてたじゃない。それに、あの宣伝動画に仕込んでおいたし大丈夫大丈夫!」


そう、宣伝動画には僕と夜月が少しだけ参加しているのだ。それが『仕込み』だったのだけど、効果あると良いなぁ……。



時計を見ると午後8時50分。すぐそこに、『ライムライト』としての初配信が迫っていた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

作者より

昨日は更新止めてしまいまして、お待たせしてしまいました。『ツンデレJK七森さん、最近デレが多くなる』(超不定期更新)というタイトルで小説を投稿しておりましたので、良ければそちらもぜひ。


それではまた、お付き合い下さいませ。

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