日替わり姉さん

@Ideal315

プロローグ

ボクの名前は平山天音。


高校二年生で、大学一年生の姉がいる。




でも僕は今……その人生に終止符をつけようとしていた。




目と鼻の先にはボク二人分くらいの大きさのトラックが……。




走馬灯というものは流れないが、全てがスローモーションで過ぎていく。


きっと脳がフル回転しているのだろう。


ボクはきちんと青信号で渡っていた。


このトラックの運転者が余所見でもしていたのだと思う。




あ〜。最後に姉さんに会いたかったな……。


生路を諦めたボクはゆっくりと目を閉じた。




♢♢♢




バレないように一定の距離を保ち、尾行する。


私の可愛い、可愛い弟がおしゃれをして休日に出かけたのだ。




そんなのデートを疑うでしょ?


寄ってきた虫は潰さないとね。




なんて思っていたが、一番あまねに近づいていたのはトラックだった。


トラックめ、羨ましい! とか思ったんだけど「あれ、これってやばくない?」と弟の危機を察知した私は五十メートル六秒台の走力をフルに使い走った。






♢♢♢






プップー




ああ。ここまでか……。




「あーまねぇ!!」




ボクにぶつかるはずだったでかい金属の塊は、ボクに当たることはなく、ボクを突き飛ばした存在。




俺の姉さんに当たった……




「姉さん!?」




トラックに撥ねられた姉さんは二度地面に叩きつけられ、今は地面にキスをしている。


少し痙攣した後動かなくなった……。




パニックに陥った僕は何もできず、グルグルとその場を歩き回って、落ち着いたところで、呆然と立っていた。




誰かが呼んでくれた救急車にタンカで乗せられて運こばれる姉さんを見て、また、血の気が引いていった。




だが、少しでも挽回しようと




「すみません、ボクが付き添います。えっと、平山天音です。今運ばれた女性の弟です」




頑張った方だと思う。




しかし、ここからも地獄だった。まさに生き地獄だ。


両親が他界し、俺を女手一つで育ててくれた母のような、姉さん。


ボクはそんな姉さんに、姉弟の関係であるにも関わらず密かに想いを馳せていた。




そんな姉さんがボクのために轢かれた。


その結果動かなくなってしまった姉を延々と見ていないといけないのだ。




僕のせいだ……。


こんなこと思ってもきっと姉さんは喜ばないだろうけど。






♢♢♢






そんなこんなで病院に着いた。


正直ここにはもう来たくなかった。




ここは両親が亡くなった場所だから。


姉さんもまた死んでしまうのではないか……。






背中に冷たい汗が流れた。




ドクンドクンと自分の心臓の音が聞こえる。


いま姉さんは病室に運ばれ、ボクは部屋の外で待っている状況だ。


いまのボクにできることは神頼みしかない。


『神様。いつもは信じてないのに都合よくてごめんなさい。姉さんを助けてください……』




あれからどのくらい経っただろうか。


静かな病院で一人で姉さんを待つというのはなんとも心細かった。


そんな時、病室の扉ががチャリと開いた。




「あなたのお姉さんは無事でしたよ。起きられましたので会いに行ってあげてください」




中から看護師らしい人が出てきて、ボクにそう告げる。




「本当ですかっ!? ありがとうございます!! ありがとうございます!!」




あまりに嬉しかったボクは病院にも関わらず大声を上げ、姉さんの元へ向かった。




「姉さん! 本当にごめん、ありがとう。体調は……?」




部屋のドアを勢いよく開けて姉さんを見た。


姉さんはベッドに腰掛けて、スマホをいじっている。




「あ。天音か……見ての通り元気だから。向こう行っていいよ」




「は?」




いつもの姉さんじゃない!


ね、姉さんはこんなこと言わない……。




「は? じゃないの……しっし!」




「ね、姉さん?」




いつもの優しい姉さんの影が見えない。


ボクはきっと、ボクのせいで怪我をしたから怒っているのだろう、と思った。




姉さんに嫌われた。という悲しい気持ちよりも、姉さんが生きていて嬉しい。という気持ちの方が勝ったボクは、




とぼとぼと病室を出て、家へと帰る。


もうこれ以上姉さんに煙がられるのは嫌だった。




ただ、姉さんに嫌われたかもしれない。という事実はやはり重かったようで、足が重かった。




いつもの通り道も心なしか遠く思える。


日はいつの間にか沈みかけていた。




一人で食べるご飯も。


お風呂あがりに誰もいないリビングも。




何一つ会話のない寝室も。




全てがボクに寂しさを煽った。




静かな空間は嫌いだ。


嫌なことを思い出す。


嫌なことを考えてしまう。




明日は学校だ。


家族のことを考えないように、夢の世界へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る