第279話 鍵の在り処

家に入ろうとバッグから鍵を取り出す。が、キーホルダーにはやたら鍵がぶら下がっている。こんなにたくさんの鍵をわたしは持っていない。というか、このキーホルダー、以前使っていたやつだ。捨てたはずなのに。


こんなにたくさん鍵があっては、どれが家の鍵なんだかわからない。ともかくも手当り次第にやってみよう。


あれ? 鍵穴がない。

これじゃ入れないじゃない。


わたしはドアを叩く。一人暮らしだから中から開けてくれる人なんて居ない。それでもわたしはドアを叩きつづけた。入れてよ。

鍵穴もないのにキーホルダーについてる鍵を片っぱしから鍵穴があるべきはずのところに突き立てる。当然入るはずもない。


わたしは疲れ、その場にしゃがみ込んだ。

「ただいま……」

一人暮らしでは口にしたこともない言葉がなんとなく漏れた。

「……戻りました」


ガチャリと錠が開く音がした。


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