第48話 コミュニケーション
その建物の前を通ると上の窓からこちらに向かって手を振る人がいた。見知らぬ人であるし、わたしに向かって手を振っているなんて思いもしない。だからわたしはただ見上げるだけ。
何度かそんなことがあり、ひょっとしたらわたしに手を振っているのかしら、と思い振って返してみた。相手の振り方が激しくなった。わたしも力強く振り返す。
それから手を振り合うだけのコミュニケーションが始まった。
その交流は突然始まった時と同じように突然終わった。その人が窓に現れなくなってしまった。
けれど、わたしはその建物の前に来ると今も手を振る。見えないその人に向かって。
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