第28話 人生の達人

「ホント、諦めがいいわね。なんでも運命のせいにして」

「諦めがいいんじゃないよ。頑張らないだけ」

「同じよ。運命のせいにしないで抗(あらが)ってみたら。運命に抵抗するのが人生の醍醐味ってものよ。運命ってのがあるとしたら、そのためにあるんじゃないの?」

「過激だねえ、君は。運命ってのは身を任せるためにあるんだよ」

「身を任せて筋書き通り?」

「そう、筋書き通り」

「決められた筋書きを生きて意味があるの? おもしろい?」

「筋書きが決まってる映画に涙してるのはどこの誰さん?」

「屁理屈ばっかり」

「もがいて抗ってると溺れるよ。力を抜けば浮かぶんだからさ。浮かんでいれば連れて行ってくれるよ」

「どこへ?」

「それは運命に訊いてよ」

「また運命? 運命論者はこれだから」

「伴侶には敬意をもって接するもんよ。ここは人生の達人と呼んでほしいね」

「じゃお聞きしますけど、なにをご所望なのかしら、今晩」

「いきなり晩ごはんの相談? せっかくお役立ち世界の真実を語っているのに台無しだな。ま、晩ごはんは君にまかせるよ」

「またおまかせ? 晩ごはんも決められないなんて人生の達人って役に立たないわね」

「運命論者としてぼくは運命の人、つまり君におまかせしてるわけよ」

「はいはい、じゃ今晩はカレーね」

「またカレー?」

「人生の達人はおまかせなんでしょ。文句言わない」

「人生の達人、やめようかなあ」


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