第3話 咲かない花

いつからそこにあったのか。


鳥が運んだであろう種が芽吹いたときには気がついた。見知らぬものが生えてきたな、と。けれど、その後とくに大きく育つわけでもなくひっそりとそこにあり続けただけ。だから、その存在をすっかり忘れていた。


それが蕾みをつけた。

相変わらず小さな木のままだけれど確実に成長していたんだな。それにしても芽吹いてから何年経ったのだろう。数十年は経っているんじゃないかしらん。

どんな花が咲くのだろう。楽しみだ。


が、蕾みはいつまでたっても蕾みのままだった。何年経っても蕾のままだった。

蕾をつけるまで数十年。だったら花が咲くまでさらに数十年ってことは十分に考えられる。


ま、それでもいいかもしれない。

おそらく、花が咲くよりわたしがこの世を去るほうが先。だったら、どんな花が咲くか、死ぬその時までそれを思い描く楽しみがある。


楽しみは、いつまでも。



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