魔王軍最弱の四天王~いとも簡単に死ぬ超最弱魔族の常敗万死録~
トクシマ・ザ・スダーチ
第1話 人よ、大志を抱きて迷宮へ挑め
魔王と人類が生活圏を巡ってしのぎを削りあう世界。
多くの人々が魔族が跋扈する迷宮に潜り、レベルを上げ、魔王を打倒せんと次々に立ち上がった!
……のも過去の話。
迷宮の中で魔族に殺されてもどういう原理かレベルを半分にされて最寄りの教会にどういう原理か戻され、村を襲う魔物たちは家屋への被害を最低限に抑えて行動し、負傷者には、
「べ、別にお前のために回復するんじゃないからね! 敵に情けをかけられる屈辱の表情を見たいだけなんだからね! せいぜい悔しがりなさい! ふんだ!」
と、かわいい悪魔プリーストに萌え萌えなツンデレゼリフと共に回復魔法をかまされたりされた。
そうして、幾ばくが過ぎた時、真理にたどり着いた者が現れた。
「あれ? 別に魔王と争うことなくね?」
真理にたどり着いた者はすぐにその国の王に『答え』を告げ、『賢者』の称号を与えられて召し抱えられた。
人類はどうしようもなく、どうしようもなかったのだった。
そうして百年ほどの間、表面上は魔物と争いながら人類は今ある資源を元手に産業革命を起こし、文明は発展し、人々の暮らしは豊かになりどんな世帯でも一家に一匹ペットを飼えるようになるまでの富を得た。
それから表面上の争いがさらに百年ほど続き、魔王は気付いた。
「然っ全我に挑む者が現れなくなったんだけどぉ!?」
疑問が留まるところを知らなくなった魔王は人里に部下を送り込んで事態に気付いた。
人間どもが、魔族そっちのけで人生エンジョイしてやがる。
「我、強い人間と戦いたかっただけなのに! 人間育てるために頑張って地域ごとにバランス調整して迷宮こさえたのに! 一家に一匹ペットだぁ? くそっ! ふざけおって! 我も犬飼おっ!」
魔王は犬を飼い始めた。
「ゲヘナロード! よし、お前にはその偉大なる先代魔王の名前がふさわしい!」
「ヒャン!」
魔王も大概、どうしようもなかった。
それはそれとして強い人間と戦いたい魔王の思想のもと、魔王軍はこれまでにない攻勢に出た。
金品と食料、その他資源や資源そのものが採れる土地などを占領したのだ。
人類とペットが飢えない程度に。
ペットを奪う案も出たが可愛そうなので却下された。
さておき人間たちは憤慨した。
「卑怯だぞ魔王! 毎日三食お腹いっぱい食べられて、仕事は定時で上がれて、ペットと戯れたりカードゲームに興じたりする自由な時間を奪いやがって!」
「充実しすぎかぁ!? 愚かな人間どもめ! 贅沢を覚えたその身では今の生活は耐えられんか!? ならば迷宮に挑め! 我に挑め! 各迷宮の最奥にはお前たちの月収の十倍を、我の宝物庫には世界中の富を蓄えた! 見事制覇した物にはくれてやろう……すべてを!」
「うおおおおやったらああああ! 首洗ってまっとけや魔王うううう!」
「良き! 良き気迫よ! やはり魔王を前にする人間はこうでなくては!」
魔王は金の力で人間を焚きつけた。
こうした経緯があって現在では迷宮に人が押し寄せ、冒険者たちがそこに財宝を求め、最高の富と名声を得るために魔王に挑みに行ったりとまさに大混沌時代の幕が上がったというわけだ。
―――魔王軍大幹部・フンジャオ著『大迷宮時代の訪れ』冒頭より抜粋
☆☆☆
「畜生! どうして、どうしてこうなった!?」
男は歯噛みしながら目の前の存在を睨みつける。
「けーっけっけ! よく来たな冒険者ども。熱烈歓迎するぞ!」
洞窟型の迷宮にハスキーでよく透った高笑いがこだまする。
迷宮の狭い道を抜けて、広間のような場所に出た冒険者たちはつかの間の休息も許されず臨戦態勢を余儀なくされた。
「全員武器を構えろ! こいつは……魔族だ!」
冒険者たちを束ねるリーダーが鋭く指示を出すが、その表情は青ざめたものだった。
彼らの目の前の高笑いする存在は身長が子供ほどに低く、声も子供そのものに甲高い印象だったが、子供が低難易度とはいえ迷宮に迷い込む可能性はかなり低い。
何よりも上質そうな赤黒いマントを纏う子供の風貌の存在の側頭部には、人間には存在しない器官である二本角が生えていた。
ついでにその子供は宙に浮いて、冒険者たちを見下している。
そう、どうしようもなく目の前の子供は魔族だったのだ。
「ま、魔族がなんでこんな初心者用の迷宮に……!?」
パーティーメンバーの一人が悲鳴じみた声を上げた。
魔族。
それは人族と似たような外見でありながら身体能力と魔力が他の生物よりも突出して高く、人族とは大きな差異として頭部に様々な形の角を有する種族。
彼らの戦闘能力は最低でも魔族一人に対して装備を整えた人族のCクラス以上……中堅程度の実力の冒険者5人ほどが必要となる。
「こっちが聞きてぇよ!」
それに相対する彼ら初心者冒険者たちは最低クラスのFクラスが4人……彼らが狼狽するのも無理のない話なのであった。
それぞれ手に持つ武器は鋳造でありふれた量産品の安物。
纏う皮鎧は中古で買った性能も怪しいもので前の冒険者のにおいが染みついてるのか少し臭い。
なんならそんな皮鎧すら着けていない、否、着ける金さえ捻出できなかった者さえいる……本当の本当にこれが最初の冒険なのであった。
当然、魔族と相対するには何もかもが足りていない。
「くそ……ここは初心者迷宮で下級の魔物しか出ないって話じゃなかったのかよ!」
冒険者たちは皆一様に青ざめていた。
彼らが挑んだこの迷宮は冒険者ギルドから初心者迷宮と認定された迷宮で、ギルドの受付で見繕ってもらったのがここまで来た経緯だ。
冒険者の間では難易度の一番低い迷宮として有名なもののひとつ『はじまりの洞窟』。
ここでは下級魔物の最底辺、Fクラスであるゼリーやゴブリンキッズがまばらにしか出ない正真正銘の初心者向き迷宮。
間違っても魔族が出現してもいい迷宮ではなかった。
しかし、どういう訳か彼らの前には魔族がいる。
魔族は大抵、外見でその実力を測るのは難しいと言われており、たとえ女子供の姿かたちをしていても油断ならない存在だというのは冒険者を志す者たちにとっては常識である。
目の前にいるこの宙に浮いた魔族も、子供の見た目だからといって安心はできない。
「よ、よし。なんとか隙を作って逃げるぞ!」
となれば必然、初心者冒険者の彼らがとる最善の行動はやはり逃走であり、彼らもそれを選ぶのは自然なことであった。
ただし、それがうまくいくかどうかはまた別の話なのだが。
「おっとぉ。けっけっけ、そうはいかないぞ」
おどけたように笑いながら子供魔族が指をぱちりと鳴らす。
すると俺たちが広間に入って来た道をズズズ、と岩が鈍い音を立てながら動いて閉ざしてしまった。
「ああっ、逃げ道を塞がれた!」
冒険者の一人が道を閉ざした岩に駆け寄ると拳で何度か叩いた後にうなだれた。
「残念だったな冒険者諸君。どうしてもこの迷宮から出たければ僕を倒すか……僕の後ろの通路を通って出口に向かうしか方法はないぞ」
それはすなわち、少なからず子供魔族に接近しなければならないことを意味し、敵対者が近づくとなればやはり戦闘へと発展することになる。
「く、くそっ!」
「けけけ! 装備と構えを見たところによると、諸君らは初心者……それも最初の冒険かな? しかし迷宮で冒険者と相対したとあればたとえそれがルーキーだったっとしても命をのやり取りをするのが魔族の習わし、さぁ覚悟を決めたまえ! 栄光は前を向いて突き進んだ先にしか存在しないのだよ!」
子供魔族は滑稽なデザインのマントをバサリとたなびかせて両手を広げて構えた。
「おっと、名乗る礼儀を欠いていては魔族の名折れだ。我が名はフンジャオ! 『不滅』の二つ名を戴く四天王が一人! あの世の手土産にこの名を魂に刻んでいくがいい!」
「四天王だって!?」
「たしか魔王軍の中でも指折りの精鋭でその功績から魔王直属の部下四名に下賜される栄誉ある称号だったはず……それゆえに軽々にその称号を口に出すことは禁じられているといわれているあの!?」
「つまり、こいつは本物の馬鹿か、あるいは本物の……四天王なのか!?」
「けーっけっけ! 僕は馬鹿じゃないから必然四天王ということになるね!」
子供魔族……フンジャオは胸を逸らして高笑いしている。
彼が四天王であるか定かではないが、相手が魔族というだけで初心者冒険者たちにとって絶望的な状況であることに変わりはない。
迷宮で死んでもどういう原理か迷宮の外で復活するというのは彼らも知識として知っている。
だが、一度も死を経験したことのない彼らにとってそれは恐怖以外の何物でもないし、適性のないものは迷宮で一度死んだだけで心を病み、冒険者を引退するという事例だって少なくない。
殺されるのは、死ぬというのは生物の根源的な恐怖……それはそれは恐ろしい。
しかし冒険者とはその恐ろしい体験を何度となく味わった上で乗り超えて進むものなのだ。
「やるしか、ない!」
そして初心者冒険者たちは震える膝を叱咤して、各々武器を構えた。
覚悟を決めた、否……他に選択肢がなかったから腹が決まったという方が正しいか。
しかし、それでも活路を見出して前のめりに愚かな一歩を踏み出すのが冒険者だ。
少なくとも彼らが憧れた冒険者の姿はそういうものだったし、彼らも今、そうあろうとしていた。
「けけけ、なかなか素晴らしい気迫じゃないか! やはり必死の人間が藻掻き進もうとする姿は胸が高鳴る……尊敬するぞ人間どもよ!」
「へっ! そいつはありがとよ魔族、いや、四天王のフンジャオ!」
「いいとも、かかってこい! 愚かなる、そして愛すべき冒険者たちよ!」
「行くぜ野郎ども! あのヘンテコマントの妙ちくりん高笑い小僧をぶっ倒すぞ!!」
「おい、僕のマントは格好いいし変な笑いでもないでしょうが!?」
全部の色を混ぜ合わせて作ったような汚い虹色が常に揺らめいているというあまりにも滑稽なマントに身を包んで笑い方がとても奇妙なフンジャオに向かって冒険者たちは駆けだした。
冒険者の一人が道中で拾った石を懐から取り出す。
魔物との遭遇戦を想定して投石用にあらかじめ拾っておいたものだった。
十中八九躱されるだろうがそれでいい。
体勢を崩せば武器の射程圏に入ることもあるかもしれない。
そんな希望的観測のもと、
「おらぁっ、降りて来い!」
宙に浮いたフンジャオめがけて冒険者は石くれを投げつけた。
ほとんど狙いをつけずに投げたものの、意外にもコントロール良くフンジャオの額めがけて石は飛んでいく。
首をひねるだけで躱すだろうが、その時は次の手を打つ用意が冒険者にはあった。
「けけぇーっ!?」
「……えっ?」
しかし、冒険者の予想に反して投石はフンジャオの額にそのまま吸い込まれるように命中した。
『経験値を1取得しました』
「え?」
次いで魔物や魔族を倒した際に聞こえる天の声が冒険者の耳に響く。
額に石を受けた宙に浮いていた子供魔族はそのまま頭から落下した。
見れば落ちた衝撃でだろうか、首がかつてない方向に曲がっている。
……いや、待て。
落下前に経験値が入ったってことはコイツ、投石を受けた時点で死んでる……?
なんなら投石を受けた拍子に首が折れた……?
……っていうか経験値1って。
ここまでの道中で遭遇したゼリーやコブリンキッズでも2~4は貰えたっていうのに……。
冒険者たちの胸中で果てしない困惑がボスを失った広間で渦巻く。
大仰な登場の割にはあまりにもあっけない幕引きに拍子が抜けたとか、素直に喜びも安堵が出来ないとか、ひょっとして第二形態があるのか、などの感情がないまぜになっているかのようだった。
そんなことを考えている間に魔族の死体は塵となって掻き消えて、跡には黒く立派なこしらえの剣が遺されていた。
次いでゴゴゴゴという鈍い音を立てて道を隔てていた岩戸が動き、封鎖が解除される。
フロアボスであるフンジャオが死んだため、封鎖ギミックが解除されたのだ。
そう。
四天王フンジャオは間違いなく死んだのだった。
初心者冒険者の、牽制で放った投石で首を折って。
「えっ、弱くね……?」
冒険者の口から自然とそんな言葉がこぼれた。
☆☆☆
ところ変わって魔王城のとある執務室。
「けーっけっけ、今日の迷宮視察も成果は上々だったな。初心者迷宮は魔物たちの脅威度や迷宮内の明かりなどのインフラをしっかりと整えておかなきゃだからね。そこがしっかりしてると冒険者を目指す人族も増えるって寸法なのだよサホ君」
そこには得意げな顔で秘書官であるサホ・タモルゴスに講釈を垂れる、初心者迷宮で死んだはずのフンジャオの姿があった。
「おかえりなさいませフンジャオ様。お早い帰りでしたね」
「うん。視察の途中で冒険者に遭遇してね。石投げられて死んじゃった」
「石を投げられてぇ……? また冒険者に返り討ちにされたんですか」
サホはフンジャオよりも頭三つほど背が高く、フンジャオは見上げるような姿勢でサホと目線を合わせて得意げに胸を張って見せた。
フンジャオの秘書官となってからしばらく経ったが、それでも数日おきに予想の下を潜ってくる主の死に様にサホは何度目かもわからない戦慄を覚えた。
この前見上げる動作で首の後ろ側を攣って死んでしまったのは記憶に新しい。
サホは反省を活かして少し屈んでフンジャオ様と目線を合わせる。
「けっけっけ。なかなか鋭いピッチングだったよ。首が折れちゃうくらいのね」
何が嬉しいのかフンジャオ様はニコニコと得意そうに遭遇した冒険者のことを語った。
屈託ない笑顔は子供そのものなのだが、このフンジャオこそが魔王軍四天王にして『不死身』の異名を頂く大魔族だったりするので世の中わからない。
その二つ名のとおりフンジャオは死んでもいつの間にか生き返っている……そんな特殊能力、この世界でいうところの『スキル』を所持している。
「投石で首が……えっと、その対峙した冒険者が非常に屈強だったとか、石が大きかったり何か特殊なアイテムだったとかですか?」
「いや、体型は標準だったし石もその辺で拾える感じの飴玉サイズだったかな!」
「えぇ……? 間違っても首は折れそうにないですけど……」
サホはフンジャオのあまりのうたれ弱さに二の句を継げなくなるところだったが、思えばいつもどおりだったのでひとつコホンと咳き込んで気を取り直した。
同時に懐からノートとペンを取り出す。
サホは仕事の一環でフンジャオ様の死因を出来る限り記録しているのだった。
既に100ページ綴りのノートは数冊ほど仕上がるくらいにはフンジャオのあらゆる死にざまを記録し続けている辺りなかなか几帳面な性格が伺える。
「けーっけっけ! 此度に会いまみえた冒険者たちもまた素晴らしい逸材であった! ともすればいずれは魔王様に比肩する実力者になるやもしれん!」
「冒険者に倒される度にそれ言ってますねフンジャオ様」
「僕は全ての人間に期待をしているのさ! ああ、しまった……僕としたことが投石の彼の名を聞くのを忘れていたぞ!」
フンジャオは歌劇の演者にように大仰に被りを振って滑稽なデザインのマントをばっさばっさと翻して独り言ちる。
サホはそれを珍妙な目で見守るばかりだった。
そして次第に、目じりがピクピクと痙攣し始める。
フンジャオのマントを見続けていると色使いが常人の美意識の範疇から大きく外れるデザインなので視神経に障って痙攣を余儀なくされるのだ。
「ところでサホ君」
「なんですかフンジャオ様」
「僕のマント、かっこいい……よね? あと笑い方もとくに妙じゃないよね? けーっけっけ」
フンジャオはマントを見せつけるようにくるくる回りながら不安混じりに笑って見せた。
「……」
とりあえずサホはそっぽを向いた。
視界で揺らめくだけで目を引き、そして見つめていると視界がぼやけて目が痛くなってしまうし、何よりもそれをかっこいいと信じて疑わないフンジャオを見ていられなかったのだ。
「サホ君?」
サホは困ってしまった。
どんな言い回しでフンジャオの醸し出す絶妙な珍妙さを傷つけずに伝えたものか、あるいはおべんちゃらでごまかすか……どっちもショックを受けて死ぬ可能性があるのだ。
早く答えないと、無視されたと判断したフンジャオが寂しさのあまり死んでしまうことすらある。
ああ、なんて面倒くさい上司なのだろうか。
「……特徴は、とらえていると思いますね」
サホがなんとか制限時間ギリギリに絞り出した答えはかなり配慮して可能な限りふんわりした物言いだった。
「……けはふはっ!」
しかしサホの努力はむなしく、忖度を察したフンジャオは全身を痙攣させながら血を吐いた。
執務室の豪奢な調度品が赤く染まる。
「ふ、フンジャオ様ぁ!? 調度品と絨毯がもったいない! というかなんで死にかけてるんですか!?」
「け、けけ……サホ君。時に、優しさは……人を傷つけるのさ……」
「こ、この人、まさか……言葉で傷つくだけで死にかけてるの……!?」
このようなことは枚挙にいとまはなく、フンジャオの死は側で使える者にとっては日常だったが、些細なことで大げさに死ぬ上司の姿にサホが動揺しないかと言えばそうでもないのであった。
「さ、サホ君……誰でも心が弱ってる日があるもんさ。そんなときはだね、何も言わずにそっとコーヒーを差し出してくれるのが、一番心が救われるもんなんだよ」
「あ、フンジャオ様ってコーヒー飲めたんですね」
「飲め、るよ……けぶはぁっ!」
コーヒーが飲めないと思われていた事実にしゅんとしてしまった拍子にフンジャオは内臓が破れて死んだ。
フンジャオ様が血と塵と化して部屋を汚す。
死んでしまったのだ。
同時にサホの脳裏に天の声が響く。
『経験値を1取得しました』
「す、すみません。あの……どうすりゃ死ななかったんですかぁ……!?」
やり場のない気持ちを抱えながらサホは経費で落とした携帯用のミニ箒と塵取り、そして塵を捨てる用の瓶を取り出した。
四天王の秘書官に任命されたときにはどんな業務が待っているものかと内心戦々恐々としていたサホだったが、まさか上司の死体処理が内容の九割を占めるとは夢にも思わなかった。
「またお部屋の掃除をしないとですね……」
血と塵で汚れた調度品や絨毯を見てサホはため息を吐く。
「……コーヒーの淹れ方、練習しとこうかな?」
しかし、それでもフンジャオが一回でも多く死なないように寄り添おうとサホは決意を新たにするのだった。
そう、あまりに弱すぎる……魔王軍最弱のフンジャオには側で支えてくれる誰かが必要なのだった。
「四天王の秘書官ってお給料がいいんですよねぇ」
……例えそれが高い給金に目がくらんだがめつい秘書官だったとしても。
貧しい実家に思いを馳せながら、ビジネスライクなことを考えながらサホはせっせと掃除を始めるのだった。
この物語は魔王軍四天王はおろか史上最弱とまでうたわれる、とある魔族が歩んだ冒険狂騒活劇……その一部を記したものである。
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