天華百剣 -憶-
@sano32
第1話「不穏な影」
――
ここはめいじ館、東京の上野にある洋風茶房だ。
そこで俺、
「お~い、大倶利伽羅~?いねぇのかぁ~?」
俺を呼ぶ声が聞こえる、いつもなら喜んで駆けつけるのだが、今回ばかりはそうも言ってられない。
気持ちを押さえ込みつつ、気づかれぬように静かに身を潜め、様子を覗う。
「ん~?おっかしいな、部屋にいるって聞いてたんだが……仕方ない、
そう呟きながら、首を傾げて廊下を歩いていく主君の姿を確認し、小さく安堵の息を漏らす。
そして、隣にいる和泉に顔を合わせ、今度は自らの不安を漏らす。
「……行ったぞ。けど、本当にこれでいいのか……?」
そんな俺の言葉に対して和泉は、腕組しながらいつも以上に厳しい表情で言い切った。
「ああ。むしろ我が君には、これくらいやらねば、必ず失敗する。大倶利伽羅の気持ちもわかるが、あまり甘やかすな。」
「う~……。」
少し下唇を噛みながら、俺は廊下を歩く主君の様子を覗う。
俺たち含む、このめいじ館に住む少女たちは皆、『
しかしその裏では、
そして現在、俺たちが追っている人物こそ、このめいじ館の店長であり、御華見衆の
状況の整理に戸惑っている俺の様子に気づいた和泉は、少し溜息をついた後に、俺を落ち着かせるように話す。
「いいか、大倶利伽羅。今、我々が行っているこの作戦は、めいじ館……いや、御華見衆全体のため、そして何より我が君の健康のためのものだ。例え、我が君の意思に反していようとも、心を鬼にして務める他ないのだ。」
……そう、俺たちは今、その主君の意思に反する行動をやっている。
「私が、私達がやるしかないのだ、他でもない、私達が。」
緊迫した表情で言う和泉も、どこか辛そうに見える。
いや、和泉の言う通りだ、俺も心を鬼にするのだ。そう心を奮い立たせなければ、主君の身が危ない。
元はと言えば、俺がもっと早くに行動に起こしていれば、こんなことにはならなかったのだから。
始まりは、昨日の夜からだった。
「事は早急な解決を求められておる。」
俺たち、
「?言葉の意味がわからない。」
「まあ、甲には少し難しい話かもしれんな。」
首を傾げる
「いやしかし小烏丸、あの男がそうすんなりと聞き入れてくれるとは思わんぞ。」
和泉は呆れたように、小烏丸の言葉に返す。
俺もそう思うし、何より主君が好きなことをやめさせたいとは思わない。
「ま、まあ、主君はあれがないと生きていけないって、出会った頃から言ってるからな。」
「一番付き合いの長い大倶利伽羅が言うなら間違いないだろう。確かに私も気になってはいるが…。」
俺の言葉に和泉も頷く。和泉も飴が好きだからな、それを急にやめろと言われてもやめられないだろうし、俺も同じ立場ならそう思う。
「ぬしらの言いたいことはわかる。じゃが妾達だけでなく、めいじ館全体の信用にも関わっておるのじゃ。」
俺たちの言葉に対し、さらに語気を強めて伝える小烏丸の姿は、どこか焦っているようにも思えた。
「現に、近くにいることの多い
その言葉に俺たち二人は少し顔を曇らせる。
実際、先程和泉も言っていたが、俺も主君と出会ったばかりの頃は気になった。
だが、そうは言っても納得はできないようで、和泉は反論するように言葉を返す。
「しかし、何故急にそんな話が出てきたのだ。着任当初からそういう話はあっただろうが、こんな大きな話になる様子はなかっただろう。そこまで大袈裟にならなくても良いんじゃないか?」
その言葉に俺も、確かにその通りだと思った。
話を聞いたとき、そんなことを考えもしなかったが、そもそもなんでいきなりそんな話が出てきたんだろう?
俺は改めて疑問には思うが、とにかく俺は和泉に同調するように、思いの丈を素直に話す。
「うん、できれば俺も、主君に無理をさせたくはない……。」
俺の言葉を頷きながら聞く小烏丸、しかし、その意志を変える様子はなく、さらに言葉を強めて話す。
「うむ、ぬしらの思いもわかる。そして和泉の言う通りじゃ、火のないところに煙は立たん。こんな話になったのも、理由がある。」
そう言いながら、小烏丸は空に飛んでいた一匹の烏をそばに呼び出す。
なんでも、小烏丸には
小烏丸はその呼び出した鳥の足に結び付けられている紙を取り、俺に手渡してくる。
「これがその理由じゃ。」
「?」
受け取った俺は紙を広げて、和泉も肩越しから、共に中に書いてある文字に目を走らせる。
「それはつい最近、英国が調査した結果じゃ。まだ世には出回ってはおらんがな。」
「「!!」」
「こ、これは……。」
「……この情報は本当なのか、小烏丸。」
俺たちは二人揃って驚愕した。
もしこの話が本当なら、俺は、なんで今まで止めてやらなかったのだろう。
目の前にあるその文字に、俺は震えていた。
和泉もその気持ちは同じなのか、目の前にある情報の真偽を聞こうとする。
「確かな筋からの情報じゃ。おそらく本当のことだろう。その理由も、しかとそこに書かれておるであろう。」
その言葉を聞き、俺は決心した。
「……和泉。」
「ああ、わかっている。」
和泉も、同じことを決心したのだろう。
「?」
甲は未だに首を傾げている、でも、だからこそ、これはいつもそばにいる俺と和泉がやるしかない、そう思った。
「あの男の日常を見るに、時間はない。なんとしてでも、ぬし達の主殿を救うのだ。」
神妙な面持ちで言葉を伝える小烏丸の言葉に、俺と和泉は顔を見合わせて、互いの決意を確認する。
「「主君(我が君)に煙草をやめさせる!!!」」
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