第77話 『わんわんドッグ』

「あ、ワンちゃんじゃん、かわい~」


森の中を探索せず、周囲の海岸を回りながら歩いていた岸辺玖一派。

その中で海辺から出て来た真っ白な犬を見て、姫路音々は警戒する事無く近づく。


「おい、化物かも知れねぇぞ」


岸辺玖が拳を握り締めてそう言った。

既に彼の肉体は化物に近しくなっている為に、狩猟奇具を使役せずに隻翼を生やしての戦闘が可能であった。


「だいじょぶだって、ほら、化物にはない純真無垢な瞳、チョ~可愛いんですけど~」


ぶるぶると体を震わせて海水を体毛から弾く白犬。

きゃあと笑いながら水飛沫を浴びてしまう姫路音々は笑いながら顔に付着した飛沫を拭う。


「うわぁ、犬の臭い……獣臭すっごいんだけど~あはは」


「……どうやら襲って来ないみたいだ。普通の犬なのかな?」


伏見清十郎が近づいてみて体に触れる。腹部や頭を撫ぜて、そのまま首辺りを擽らせる様に触ると、白犬は気持ち良さそうに目を細めて舌を出した。


「ただ触りたいだけじゃないのか?清十郎」


「え?ぃ、いや……違うけど……うん……」


咳払いをして誤魔化す伏見清十郎。

こんな緊迫した状況下、癒しがあるのならばそれに甘えてしまいたい気持ちは分からないでもない。

ストレスが身を重くする最中、可愛らしいものがストレスを解消していくのだ。


「……あれ?この首輪」


伏見清十郎は白犬の首に付いていた首輪のタグを確認する。

それは白犬の名前ではなく、製品番号の様なものが描かれていた。


「……紋白家の家紋だ……という事は、この犬、狩人か?」


「え~?いやいや」


笑いながら白犬の頬を揉む姫路音々。


「犬なら狩人じゃなくて狩犬じゃ~ん」


「普通に狩猟犬で良いだろ」


岸辺玖がそう突っ込んだ。


「そうかも知れないが、其処が重点じゃないんだ」


更に岸辺玖に伏見清十郎がそう突っ込む。


「紋白家は討伐会の育成機関に置いて補助系の狩人の育成に特化されている。近年では狩人不足の為に、小動物を調教して運搬、救護、その他補助関係の能力を持たせて活躍させようとしていたらしいけど……現状は紋白家関係者しか狩人犬は配布されてしない筈……」


「やけに詳しいな……」


「一応は育成機関に在籍してたからね……玖は忘れているかも知れないけど」


夢の設定をさも共通の事であるかの様に語る伏見清十郎。


「んで、その狩人犬がどうしてこんな所に居るんだよ」


「え~?話の内容からして、紋白家のカンケーシャが持って来たんじゃないの?ほら、十六狩羅の候補者が」


そう言われて、岸辺玖は頷いた。

岸辺玖も何気無く白犬に近づいて手を鼻先に近づける。

白犬は岸辺玖の掌の臭いを嗅いで、急に牙を剥き出して唸る。


「俺にだけ反応悪いなコイツ」


「調教された狩人犬だからね……恐らくは玖の中にある化物の臭いに敵と誤認しているんじゃ?」


「俺は化物扱いかよ………」


そう溜息を吐いた時だった。

森林地帯から、音を立てて人が出て来る。

岸辺玖は振り向いて、それが人だと理解して目を細めた。


「ん……あぁ、狩人かい?」


黒スーツを着込んだ男性……夜行武光と、岸辺玖が邂逅した。





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