第74話 『狩りするハンティング』

現在。

岸辺玖一派を含めて、飢餓島には九名の狩人が侵入を果たしていた。

その内の一人が岸辺玖と深い関わりを持つ東王子月千夜であり、彼女が十六狩羅の候補として島へと来た事が確定していた。

そしてもう一つ。飢餓島に上陸したのは、若い青年であった。

黒髪に青い瞳。高飛車な黒スーツを着こんだ青年。

十家に該当する夜行家の当主候補。

名前を夜行武光たけみつと名乗る。


「さて、上陸したワケだけど……」


彼は岩場を超えて狩猟奇具を放り投げながら森林地帯の方に顔を向ける。


「何か居そうだね、これは……」


島へと上陸する仲間たちの方に顔を向ける。

一人は片足が義手になった、白髪交じりの中年だ。

厚いコートを着込んでいて、痩せ細った姿は餌を与えられていないロバのような姿に近しい。


「武光さま、お怪我はありません?」


薄い笑みを浮かべて、黒髪長髪の和服姿の女性が言う。

夜行家に使える従士の家系である、榊一族の娘、榊色子である。


「俺の心配なんてしなくてもいいさ。それよりも、文川さん、索敵の方をよろしくお願いしますよ」


と、不摂生な見た目をする中年男性、文川富男が頷くと狩猟奇具を取り出してトリガーを引き抜いた。

ぶよぶよとした脂身の様な部位が出現すると、脂身の中から湯葉の様なぬるぬるとした触手が出てくると、島の中へと走り出す。


「今回の任務の事だが……基本的にこれは無視して良い、俺たちは狩人を見つけることを優先にする」


と、夜行武光は二人にそう切り出した。


「何せ、此処は飢餓島。死亡率が九十を越える魔の秘境。殆どの狩人は死に絶えるだろうが……もしも、十六狩羅候補の人間が、自分以外に死んでしまえば……残った人間が自動的に十六狩羅になる」


「前方、化物が迫っている」


文川富男が狩猟奇具から伝わる情報を口に出した。

それと同時、森林地帯から木々を破壊しながら岩場へと迫る機械の様な鋼の甲殻を持つ頭部から槍のような一本角を持つ化物が接近してくる。


それに対して背中を向けたままの夜行武光。

化物が主を攻撃しようとしているのに、榊色子は身構える事も鬼気迫る表情を浮かべる事もない。

ただ、主の動作に目を向けていた。

掌から軽く投げられた狩猟奇具。

それを受けとると同時、夜行武光は即座にトリガーを半引きした。

瞬間、暴発する様に飛び散る狩猟奇具から溢れでる筋肉繊維。思い切り片手だけを振って、肉眼では微かに動いた程度の行動を行ったかと思えば、夜行武光に迫る化物が関節の部分や首回りから黒い体液を撒き散らして部位が切断される。

そして、夜行武光の手元には狩猟奇具のみが残されていて、彼はそれを何時ものように軽く投げ飛ばして遊ばせている。


「さて、始めようか」


そこで始めて森林地帯の方に顔を向けて、夜行武光ははじめの一歩を繰り出した。


「狩人狩りだ」



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