第73話 『上陸のランディング』

海を泳ぎ、餌を撒いた船に目移りしていたのか、岸辺玖たちは化物に遭遇せずに浜辺へと到着した。

泳いで渡って、軽く息を荒げながら砂に倒れる。

濡れた体に砂が張り付いて、気持ちが悪かったが今はそう言っていられない。


「あ~もう、髪がごわごわになっちゃうじゃんか、シャワー何処?」


「あるワケねぇだろッ!」


岸辺玖は大の字になりながらそう叫ぶ。

立ち上がり、周囲を確認する。

砂浜の先には広大な森林地帯が広がっている。

何か生物が生息していそうに思えるが、鳥も蟲の声もしない所がとにかく不気味だった。


「化物は居なさそうだな……」


「そだね~……よいしょっと」


バッグの中からペットボトルを取り出すと、姫路音々は容器を傾けて飲料水を飲んでいる。


「くそ……海水飲んだから喉が渇いた」


「食料類を纏めたものは船の中だ……」


「ん~?なになに、食料なくしたん?ならほれ、呑む?」


そう言ってペットボトルを姫路音々が渡してくる。


「悪いな」


「うん、あ、ジャスミン茶だけど、……まあ味は気にしないか」


彼女に渡されたペットボトルを傾ける。

味はともかく、喉が癒える。


「他に何を持って来たんだ?」


伏見清十郎が姫路音々のバッグの中を確認する。


「え~?見ちゃう?あたしの下着と寝間着とぉ~あと、お化粧品にミニバッグ、中身は効かないでね~」


「……食料は?」


「え?あ~……プチグミあるよ?」


袋の中から十円で買えるグミがあった。

伏見清十郎は、もう少しマシなものを持ってこれなかったのかと言いたかった。

だが、彼にそれを言う資格はない。

彼女はなんであれバッグを持って来た、伏見清十郎や岸辺玖は荷物すら取らずに海へ逃げた。


「十個あるから一人三つずつね~、はい」


「……ありがとう」


今は小さな恵みを文句を言わずに受け取るしかない。


「けど冷えるね~、木は沢山あるし、燃やして暖取らない?」


「いや……火は駄目だ」


化物を寄せ付けてしまうかも知れない。

普通の化物相手ならばなんとかなるかも知れないが、此処は飢餓島。危険地帯である。

いきなりラスボス級の化物と出会う可能性もある。


「じゃあどーしよっか」


「……取り合えず移動するしかないだろ、安全な場所に」


岸辺玖が言って立ち上がる。


「じゃあちょっと待って、今体拭いて着替えるから……あ、見ちゃ駄目だかんね~」


恥ずかしそうに顔を赤らめつつも、姫路音々は茶化す様に言ってバッグの中から服を取り出す。


「遠くに行くなよ」


「後ろは向いてるから」


「おっけおっけ~……よいしょっと」


布切れの音が聞こえる。

女子が衣服を着替えているが、それよりもこの状態で化物が来ないか心配だった。



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