第70話 『強いらしいストロング』

天候はかなり荒れている。

空は黒く曇り、太陽の光すら射し込ませず、大雨が上から降り注ぐかと思えば、海原が荒れて潮水が船板に叩き付ける。

雨水と海水が瞬時に衣服を濡らして、岸辺玖と伏見清十郎は海に向かって吐いたのかすらどうか分からない程に荒れていた。


「気持ち悪い……」


伏見と岸辺が濡れたままで登場して、その二人の姿を見た姫路音々はタオルを渡した。


「うわ~二人とも凄い水浸しじゃん、ほら、風邪引くから服脱いで、体拭きな~?」


そういうがグロッキーな二人ではどうにも濡れた衣服が服に貼り付いて脱ごうにも脱げきれない様子。

仕方なく、姫路音々が脱がすのを手伝って、彼らの体をタオルで拭いていく。


「うわーすごい白いじゃん、生まれたてみたい」


彼らの素っ裸を確認して姫路はそう言った。

岸辺玖も伏見清十郎も、角麿による改造手術によって肉体が化物寄りになっている。

だから肉体も変色しており、病人の様に白くなっていた。


「おい、何処拭いてんだよ」


あまりの気持ち悪さに倒れていた岸辺玖は、姫路音々が下半身に触れて来たので、苦言を申す。


「え?いやいや、ちゃんと拭かないとダメじゃん?あたし一度始めてたら最後までしないと気が済まない性質なんだよねぇ」


「聞いてねえよ、触んな……」


口の中から酸いた様な臭いがして、岸辺玖は自分で自分の臭いに吐きそうになる。

だからぐだりと横になって、彼女にされるがまま、体を拭かれてしまう。


情けないと思う反面、彼女の優しさにありがたいと思っている。

だからこそ、岸辺玖はどうしても解せない事がある。


「(なんでコイツが狩人なんだ?)」


そう考えてしまう。

思ってしまった以上、彼はどうしても聞きたくなってしまう。


「お前」


「お前じゃないんですけど、姫路か姫路ちゃんかヒメジーかヒメちゃんかヒメミン、その他可愛いあだ名があったらそれで」


宜しくとピースをして言う。


「……姫路、お前、なんでここに居るんだ?」


「え?グアムグアム……あ、でも違うんだっけ?え~……まあ、帰るのも面倒だし」


「いや、帰れよ。危ない所なんだろ、飢餓島って」


岸辺玖が聞いた話であれば、そこは生半可な覚悟で行けば確実に後悔する場所である。


「まあ危ないのは知ってるけどさぁ~、まあ、あたしが適任、的な?」


「何処がだよ」


彼女の見た目はギャルだ。

危機感などまるでない呑気な喋り方に加えて、今まで旅行気分でもある。

それでも。


「ゆかりん…あ~ゆかり様?が決めた事で、狩人部隊の中から一番強い人が参加するようにって言われてて……」


下唇に人差し指を向けて。


「あたしが一番強いから」


呑気な喋り方で、嘘とも冗談とも言いがたい口調で彼女がそう言った。

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