第68話 『島の中はアイランド』

飢餓島。

それは人間の為の島ではない。

既に先住民は迫害され、化物と呼ばれる生物によって侵略された。

魑魅魍魎が蔓延るその大地には、しかし食料が失せていた。

陸水共用の化物であれば島から泳いで、あるいは長距離の飛行が可能な化物であれば、この島から逃れて別の大陸へと向かい、食料である人間を食べれただろう。

だが、少なくとも化物が島に残っている以上、その様な能力は宿していない。

そして人間が完全に消え去ったこの島には、化物たちの飢餓で満たされている。

食べなければ死ぬ、喰らわなければ飢えに殺される。

動物並みの知性を持つ化物ですら、飢えがどれ程危険な状態かであるかは熟知している。

ならばどうするか、基本的に、化物たちはその行動をすることは無い。

同族である為か、それが無意識に禁忌であると知っている為か、あるいは食料があるからこそ、その行いは不要であると思ったのか。


どちらにせよ。

彼らの中にあるルールはこの島の中では意味を成さない。

何れ死んでしまう。喰らわなければ全員諸共に死滅する。

ならば、ならばだ。

喰らう他あるまい。自分が生き残る為に、その為に、他を犠牲にすることなど厭わぬ。

故に、化物は喰らう。化物をだ。

化物を喰らい、化物が喰らう。

弱肉強食とも呼べる新たな法則下。

飢えを満たす為に同胞を喰らい尽くす。

そうなればどうなるか。

蟲毒と言う概念がある。

毒性を持つ蟲、あるいは生物、それを一つの壺に入れて一ヵ月から一年程の期間の中幽閉する。

食料は無く、あるのは同じ毒を持つ生物のみ。飢餓を覚える生物たちは、自分以外を餌として認識して喰らうのだ。

そうして、喰らい、喰らい、喰らい続けて、最後の一匹になった時、その生物はより強力な毒性を宿している、という話。

飢餓島とは、蟲毒の島でもあるのだ。

化物が化物を喰らう事でその力を継承し、継承した化物は通常の化物よりも強くなっている。

六か月前、三か月前、つい先月。少数部隊が組まれて飢餓島へと到来し、討伐を行おうとしていた狩人たちが居た。

しかし、ほとんどの狩人は死んで、生き残った者が、その島の脅威を語る。


『島に入れば、死を望め、あの島は人こそ至高の餌、島に渡って数秒で部隊の半分が全滅した』


その言葉と、狩人として島の調査を全うした男から渡された資料には、明らかに威度S以上の化物が多く棲んでいた。

十六狩羅が十人居ても、この島の全てを踏破する事は難しい。


そんな、化物たちの本拠地に、十六狩羅になる為に武装を整える候補者及び同行者が向かっていた。



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