第65話 『試験管の子供たちはテストチューブなチルドレン』

二人の攻防戦が始まろうとする最中。


「あいや、おまちまたれるでち、おふたがた」


舌足らずな声と共に、岸辺玖の顔面を拭く赤髪の幼女が其処に居た。

振り向き、伏間清十郎と紫乃結花里はその幼女の姿を認識する。


「(『試験管の子供たち』?)」


「(その腕章……討伐会管轄……、そういえば会議がありましたわね)」


『試験管の子供たち』。

十家の一人である若命研究会が作り出した人工狩人である。

若命家は生命を作る事に長けていた。三十年前は狩人不足が危惧されていた時代であり、若命家はそんな時に人工狩人を制作する事にしたのだ。

そして二十五年前に作られたのが『試験管の子供たち』であり、彼女は九番目に制作された『試験管の子供たち』の一人であり、何期生か分かる様に、片目に『玖』の字が入っている。

現在、若命家は十家であり、『試験管の子供たち』は狩人会にて活動をしている。


「かりうどかいかんかつ、せんばついいんかいの若命てちでち」


挨拶を交わして、紫乃結花里の方に顔を向ける。

幼い顔に、まんまるな瞳。見るだけで微笑ましい少女ではあるが、その戦闘経験はグレードA以上の狩人と同等である。


「ゆかりちゃま、これよりせつめいをおこなうでち、なので、げどくしてほしいのでち」


そう言われて、紫乃結花里は少しだけ考えたが、溜息を吐いた。

今、此処で彼女に対抗したとすれば、後で討伐会から他の『試験管の子供たち』が出て来る。そうなれば、岸辺玖との時間は少なくなり、最悪、活動違反と称されて処罰が下される。

そうなれば、謹慎処分、岸辺玖とは二度と出会えなくなる。

仕方なく、紫乃結花里は扇子を振って解毒剤を撒く。

岸辺玖がその解毒を摂取すると、息を深く吐いて、痺れが残る手を動かした。

ようやく、岸辺玖の毒が解かれた事を見つけると、咳払いをして若命てちが話を始める。


「このたび、きしべきゅうさま、あなたはししちゅらっ……んむむ、じゅうろくしゅらのこうほとしてえらばれまちた」


「ッご主人様が十六狩羅にでしてッ!?」


「……驚くが、ありえない事じゃない……」


十六狩羅にはある程度の条件が必要とする。

例えば、狩人としてのグレードがA以上である事。

岸辺玖のグレードはBなので、条件は満たしていない。

他には、威度S以上の化物の討伐をしたこと。

これは、岸辺玖がバルバロイを撃破した事になっている為に、該当する。

上記の何れかから十六狩羅からの推薦がある事。

岸辺玖はバルバロイを撃破した為、十六狩羅からの推薦が来た。


「これにより、きしべきゅうさまにはとくべつにんむがはつれいされるでち、そのにんむをすいこうし、もっともせいせきのよかったじょういにめいのかりうどがじゅうろくしゅらになるでち」


若命でちはそう言う。

十六狩羅になる権利を、岸辺玖が掴んだのだ。


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