第二章『十六狩羅篇』

第57話 『仕組みを調べたメカニズム』

後日。

『角栄郷』は化物による破壊によって復旧作業が行われていた。

辛うじて無事である施設に、狩人たちは休養し、更に、今後化物による奇襲が行われる可能性も考慮して、別の狩人が警護をする様になった。

そんな中、角麿の特別施設内部にて、一人の女性が彼女に詰め寄っていた。

獅子吼吏世である。彼女は、岸辺玖が記憶喪失になってしまった原因が彼女にあると思った。いや、事実、そうなのだろう。


「あぁ、確かに麿が手術をしたのぅ」


遺体収納庫には、多くの化物の遺体がハンガーの様に吊り下げられていて冷凍保存されていた。

角麿は、タブレットで写真を撮ったり、化物の死体を検品しながら回っている。

その傍らで、獅子吼吏世の質問に対して片手間で答えていた。


「何故したんですか?」


彼女の眼は腫れていた。

岸辺玖が自分との記憶を完全に失ったと気が付いた時。

そこで彼女はもう、以前の岸辺玖とは違うのだと思った。

それは、記憶を失う以前の彼を殺されたも同意であった。


「本人たっての希望じゃ。それを無碍にする事は出来んし、……そもそも、麿に頼めばどうなるか分かった事であろう?それを承知でしたという事は、記憶を失う事も承知であった筈。あの男は自分の能力が低く、失敗する確率が高かったのじゃ。記憶を失う程度で強さを手に入れられたと考えれば、打倒じゃろう?感謝こそされる覚えはあっても、そう非難される覚えはないのぅ」


やれやれと、面倒臭そうにそう答える角麿。

それもそうであろう。今回の手術は本人たっての希望なのだ。

それを、第三者から批判されると思うと、面倒臭すぎて知った事ではないと一蹴してしまいたくなるのが分かる。


「っ、あなたのせいで、彼が死んだんですよ?」


記憶を失った岸辺玖の事を思い、悔しくて、涙が出そうになる。

しかし、涙を出してしまえば、弱い人間だと思われるから、必死になって怖い形相を作っていた。

けれど、それを見抜く様に、角麿はぬはは、と笑う。


「そうじゃのう。死んだのぅ。しかし、それはどういう意味でじゃ?記憶を失ったから、以前のあれは死んだと捉えるのかの?それとも、実際に一度死んだ、と文字通りの意味かの?」


それは挑発の様だった。

獅子吼吏世は、思わず手が飛びそうになって思いとどまる。


「失ったものをいつまでも見詰めているではないわ。全てを喪ったワケでもあるまいし。残されたものを大切にすれば良いであろう?」


誰のおかげでこんな事になっているのか。

それを獅子吼吏世は言う事は無かった。


「……玖の記憶は、戻るんですか?」


「戻っておるのなら連れて来るが良い。再び頭の中を割ってどうなっているか見てやるからのぅ!」


嬉々として答える角麿。

それが最後だった。二度と、この様な人間と喋りたくないと、獅子吼吏世は思った。

踵を返して、最後に彼女は失礼しますと、怒りを込めてそう告げて、彼女のアトリエから出て行くのだった。




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