第55話 『聞き取れない音を発するバルバロイ』

岸辺玖がギロチンの刃を振り下ろす。

ギロチンの刃がバロバロイの肉体を切断するが、液状である化物の体は簡単にすり抜けてしまう為に、岸辺玖の攻撃が効く事はない。


「ら、ァぁあ!」


岸辺玖はそれでも、ギロチンの刃を振り回す事しか出来ない。

肉体から流れる化漿を隻翼に回し続ける。化石から化漿が大量分泌され、化漿を分泌する為に化石が行使されていく。


「(体が熱い、痛い、冷めない、あ、がッくそッ、負けるか、俺が、コイツに、ィぃいい!)」


化石の消耗が激しくなる。

一瞬の視界が暗転、意識を失い、岸辺玖が膝から崩れていく。

その瞬間に、岸辺玖を狙い、バルバロイの牙が岸辺玖に噛み付いた。


「が、ああああッ!」


体に牙が食い込み、枯れた体に簡単に牙が入る。

しかし、岸辺玖は苦痛に歪んだ表情を浮かべながらも、微かな笑みを浮かべてバルバロイの体に触れると。


「あ、りがてぇ……メシ、が、自分の方から来やがった……ひ、はははッ!」


口を開けてバルバロイの体を貪る岸辺玖。

牙でバルバロイの液体に思い切り被り付く。

バルバロイが自分が捕食されていると認識に、彼が口の中に含んだ部分だけを針の様にして攻撃する。


「ぎびッ、ぎゅ、がは(は、ははッ、おい、全身を針にして串刺しにしないのか?)」


岸辺玖は疑問を抱きながらも、バルバロイの針を噛み砕いて無理矢理飲み込む。


「(そりゃそうか、肉体を変貌させりゃさせる程に、面積が広くなる、そうなったら、困る事があるんだろ……自分の核を守る箇所が薄くなっちまう、とかな)」


そう考えた。

化物は基本的に知性が低い。

だからこそ、その行動は基本的に本能で活動している。

本能的に、自らの弱点を守っているのだ。

そして、岸辺玖はそれを看破した。


「(てめぇの体に、あるんだろ、その核がよぉ)」


ならば、岸辺玖は、隻翼を収納した。

そして、自らの爪を開いて、鉤爪の様にする。


「てめぇの体を無理矢理剥ぎ続けりゃあよぉ、其処に心臓があるんだろ?」


バルバロイの体を掴んで、岸辺玖が爪でバルバロイの体を切り刻んでいく。

バルバロイの液体となった肉片が、バルバロイ本体に来ない様に、遠くへと投げ捨てる。

バルバロイは危機感を覚えて、岸辺玖に向けて針の様な攻撃を仕掛けて来るが、岸辺玖は貫かれても痛みの表情を浮かべず、ただ勝利を確信した笑みを浮かべてバルバロイを攻撃し続ける。

そして、バルバロイの体積が少なくなり、其処にバルバロイの核が……心臓の様に鼓動を刻む化石があった。


「あった、あッたァ!寄越せ、コラァ!!」


叫び、岸辺玖がバルバロイの化石を握り込む。

バルバロイは、化石の周りの液体を、岸辺玖の腕に向けて放ち、蜘蛛の糸の様に纏わりついて固定する。

まるで、子供がおもちゃを取り上げられない様に、必死になって掴んでいる様な健気さだ。

疲弊している岸辺玖ならば、それは簡単に引き剥がす事は難しいだろう。

しかし、隻翼を戻した岸辺玖は、多少の肉体の能力が回復していた。

弱弱しく、何かを守っているバルバロイの行動など、取るに足らない。


「うまそうじゃねぇかよ……あぁ……」


思い切り引き千切り、化石を無理矢理取る岸辺玖。

そして、それを握り締めたまま、口を開く。

化石を喪ったバルバロイは、必死になって自らの化石を取り戻そうと岸辺玖に近づき、子供の様な腕を作って手を伸ばす。


「カエシテ……カエシテ……」


スライムに人間の様な顔が浮かんで口が動く。

岸辺玖に、それを返して欲しいと懇願するが。


「何言ってんのか全然分かんねぇよ」


岸辺玖の口が閉ざされて、干し柿の様なバルバロイの化石が飲み込まれた。

それが、バルバロイに効果的で、身を震わせて、バルバロイの肉体は周囲に四散した。

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