第49話 『線じゃ無理なライン』
バルバロイ。
アメーバ状の流体筋肉繊維を持つ化物であり、肉体を自在に変化させ、軟化や硬化など硬度を変化させる事が出来る。
基本的なフォルムは二本足であり、胸板には人間の顔が三つ程張られている。
その顔の表情は筋肉の動きによって変えて、泣いている顔や怒っている顔、苦しんでいたり、負を連想させる様な表情ばかりである。
そしてその左腕には、平均男性と同じ大きさをした人間の頭部が生えている。
目玉をぎょろぎょろと動かして、常に狩人の方を狙っていて、とにかく気味が悪い。
そして、肝心の化物の頭部は、頭を丸めた厳ついアスリートの様で、眠っている様に目を瞑っている。口も閉ざしていて、何かを喋ろうともしない。
その化物がバルバロイと名付けられたのは、複数の顔面がぶつぶつと呟いて、何を発しているのか分からない、醜い言葉を喋る蛮族と言う意味合いを持つ『バルバロス』からとられている。
『なんとも嬉しい誤算じゃぁ、とは言いたいが……』
屍が行動を停止する。
口から発する声だけが響く。
『流石に分が悪いじゃろう、手術ももうじき終わる。十五分以内にはそちらに着く……それまで、なんとか堪えておくのじゃ』
それを最後に、屍から声が聞こえなくなり、完全停止した。
「くッ」
「お仲間を呼ぶだなんて、化物にも仲間意識なんてあるんですのねッ」
紫乃結花里と角袰が狩猟奇具を構えた。
彼女らが応戦しようとした時、バルバロイが二人に向けて右腕を向ける。
右腕は指が三本しかなく、それは槍の穂先の様に尖っている。
その先端は、ずずず、と延びていくと、瞬間的に射出して、二人に向けて刺突を繰り出した。
「(鱗粉、は、無理ですわねッ!)」
相手をジワジワとなぶる様な能力である『茈鱗蝶』では、即効性な攻撃に対する防御には向かない。即座に回避行動に移る紫乃結花里。
角袰は小刀を前に突き出して刀を操作すると、刀を折り重ねて防御壁を作り上げる。
「……ッ」
刀と切っ先が衝突する。
紫乃結花里は角袰の傍から離れて、その刺突を回避して、角袰を見た。
「ッ角さん!!」
その声に反応するよりも早く、彼女は動いていた。
バルバロイによる突きを喰らった彼女は、バルバロイの方を見ていた。
バルバロイの上半身は其処にはなく。右腕と、それを支える為の下半身しか無かった。
バルバロイの上半身は、刺突を繰り出した指から移動して、角袰の方に接近したのだ。
巨大な左腕が、ハンマーの様に角袰を叩き付ける。
一撃、その膨大な質量による暴力。
前のみしか集中していなかった彼女は、その真上からの攻撃に対処出来ずまともに受けてしまう。
額から生える、角が折れる音がした。
何度も何度も、角袰に向けて叩き付ける左腕による暴打。
「おやめなさいっ!」
そう叫ぶと同時に紫乃結花里が鱗粉を舞わせる。
それと同時、バルバロイの下半身に向けて走り出す、岸辺玖の姿。
「しゃぁああッ!!」
隻翼を動かして刃の尾をバルバロイの下半身に向けて振り下ろす。
下半身とそれを支えていた右腕が切断されるが、下半身は雨粒の様に丸くなって跳ね回る。
下半身を喪った為に、バルバロイの姿勢は崩れて、バルバロイもまたボールの様に丸まって下半身の方に転がっていた。
「角さんッ!」
紫乃結花里が角袰の方へと向かう。
角袰はうっすらと目を開けて、マスクを外す。
口から溢れる血が、マスクの裏に付着して赤い糸を作り出していた。
「くッ……確か……角さんの妹さん、治療をッ!」
そう声を荒げる。
破けた衣服を胸元にあてて、走って来る角彩の姿。
そんな彼女の背後にバルバロイが移動すると同時、姿を元に戻して角彩の背後に立つ。
腕を振り上げて彼女の体を叩き潰そうとする最中。
「潰すのが好きか?俺もさ、叩いて潰してやるよッ!!」
ハイになった様子の岸辺玖が地面を弾いて接近する。
しかし、彼の隻翼では液体化になるバルバロイには敵わない。
だが、岸辺玖はまがりなりにも人間だ。知性が存在する。
「(線じゃねぇ、面だァ!!)」
隻翼の刃による攻撃ではなく、ギロチンの腹で叩き付ける様にバルバロイを攻撃。
ギロチンの腹の方が面積が大きいために、バルバロイの流体的な肉体がスプーンで掬う様に弾かれる。
「何処だ、核ぅ!」
決して、角彩を助けたワケではない。
腹をすかしている岸辺玖は、きっと、強い相手の方が、より濃厚な化石を味わえると思っただけだった。
しかし、その行為が、角彩を救った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます