第41話 『金槌のハンマーヘッド』

バビロンは蛇の様な化物に乗って移動を開始する。

角袰は棺を盾の様に構えて、もう片方の手で荒桝を起動。

前方から角袰に向けて接近する頭部がトンカチの様な形状をする化物が迫る。

その両腕もハンマーの様な拳で、角袰を殴り付ける。


「(『金槌ハンマーヘッド』……)」


グレードA狩人・上木周が保持する化石である。

特性は貫通。ハンマーで殴られると釘を叩くかの様に肉体に衝撃が貫通してくる。

狩猟奇具での防御や狩衣の性能を無視して生身を攻撃してくる為に厄介な化物だ。


「傀尽」


狩猟奇具での防御は意味が無いので回避を行い声を発すると共に『金槌』の背後に傀尽を向かわせる。

鋭い籠手の手先が『金槌』の背中を破壊して化石を握ると、引き抜いて無理矢理化石を掴んだ。


化石は形状を変化させる。

鋼色の筋肉繊維が噴出して形状を取り留めると、金槌が肥大化した戦槌へと変わる。


「前進……バビロンを殺して」


命令を下すと傀尽は疾走していき、バビロンへと向かい出す。

バビロンは崩壊した施設の瓦礫の上を歩いて、燃える火にすらおくびにせず、施設の後ろに生える森林の方へと逃走しようとしていた。


逃走されるのは中々に困難である。

まだ、狩人を殺されていた方がいくらかマシだ。

戦っている以上は倒せる可能性がある。

しかし逃げられたら、此処に居る狩人が必死になって守ったものや命を失ったものが無駄になってしまう。

多少の犠牲を払ってでも、此処でバビロンを討伐しなければならない。


傀尽が瓦礫の山、火の海に飛び込もうとして、上空から迫る化物に肩を掠める。

掠めるだけで、傀尽は神経や筋肉を痙攣させた。

飛行する鳥型化物『雷光ライトニング』である。

触れた対象を感電させる特性を持つ為に、触れてしまえば足止めに有効である。

更に、その一瞬の内に他の化物が傀尽に迫る。

傀尽は握り締める戦槌を振り回して化物にダメージを与えようとするが体が傾いた。

感電が効いている、という訳ではない。

傀尽の足元には『泥濘ヘドロ』と呼ばれる化物が居て、触れれば体が沈み込む底なし沼の様な特性を持つ。


「……ッ」


焦燥を覚える。

角袰が傀尽の方へと向かい、バビロンへと挑もうとする。

一瞬の思考が過り、体がそうすべきだと判断に動いた時。

背後からの化物に気が付かなかった。

なんとか背後の化物を察知して振り向いたが、既に化物は攻撃態勢に移っている。

確実に一撃が入る。そんな絶体絶命の瞬間。


『ぬははは!お困りじゃのぅ!妹よ!』


そんな雑音に近い音声と共に、化物を切断する屍が一人。

角麿の屍が現着して、屍の口から彼女の声が漏れている。


「……姉さん」


『ぬはは、良い良い!こんなにもサンプルが多いッ!良いのぅ!!』


嬉々として喋る狂人。

しかし、我が姉にしてこれ程までに心強いと思った事だろう。


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