第26話 『欲しいとはプリーズ』
踵を返して、獅子吼吏世は廊下を早歩きで向かう。
「(駄目、だめ、そんなの……玖は絶対に、私の子は絶対に、渡さない)」
ならばどうするか。
あの場に乱入してしまえば良かったのか。
しかしそれでは一時中断するばかりで、獅子吼吏世が居なくなればまた行う可能性がある。
獅子吼吏世は、岸辺玖を嫌悪していた時代があるとは言え、しかし、岸辺玖の性格を理解しているつもりである。
「(玖を、私の子を、取り戻すには……これしかない、これしか、彼を振り向かせる方法はないわ)」
岸辺玖は復讐者である。
首無しを討伐する為に狩人となり、首無しを殺す為に鍛えている。
そして彼が欲するのは首無しを討伐出来る程の力と、討伐を行う時に、他の人間に横取りされぬ様にキープ、または首無しを討伐する際に階級無視による無条件討伐戦参加が行える階級、つまりは、権力。この二つを岸辺玖は欲している。
獅子吼吏世は獅子吼家の人間であり、その父親である獅子吼濫界は十六狩羅の『刀狩り』である。その時点で地位は確約されている。
再び、獅子吼濫界の個別部屋へと戻ると、正座をして今後はどの様な行動をするべきか悩む獅子吼濫界が居た。
「戻って来てくれたのか」
表情は硬く笑みを浮かべる事は無かったが、安堵の息を洩らす獅子吼濫界。
獅子吼吏世は呼吸を整えて、しかし声を荒げて獅子吼濫界に告げる。
「お父様、私に、獅子吼家の家督を下さい」
彼女の答えは、いくら子煩悩な獅子吼濫界でも、とても許容出来ないお願いだった。
「……家督か、何れ、お前が継ぐだろう……だが、私より強ければの話だ」
父親ではなく、獅子吼家を守護する者として、狩人の表情を浮かべて立ち上がる獅子吼濫界。
「お前はもう少し聡いと思っていたが……実力差を知らぬのか」
獅子吼家は血筋が重点ではない。
全ては実力で決められており、次代の獅子吼家の当主の選定は至って簡単であり、現当主との一対一での戦闘を行い、勝利する事で家督の権利を入手する事が出来る。
今までの獅子吼吏世ならば、何を血迷ったような事を言わずに、相手が弱り、そして自分が強くなった時を狙って戦いを挑む筈だ。
しかし何を血迷ったのか、その発言は命知らずも良い所である。
「知ってるわ、それくらい……お父様、私は、勝たなきゃいけないの」
勝って、獅子吼家の権利を自由に扱う。
そうすれば、岸辺玖が振り向く様な事が出来ると信じていた。
「……一度、実力を教える、それも良い機会だ、来なさい」
自室から出て、獅子吼濫界は歩き出す。
獅子吼吏世は、そんな父親の後を追い出した。
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