第24話 『子煩悩になってるチャイルドトラブル』

角栄郷の療養施設の中には、十六狩羅専用に用意された特別個室が存在する。

その個室は通常の狩人の約五倍ほどの面積があり中は十六狩羅の要望によって内装が変わるっている。

獅子吼濫界の個室は和室だった。


和風な雰囲気を宿す彼によっては似つかわしい部屋の中であり、獅子吼吏世はおそるおそる部屋の中に入って、敷かれた座布団の上に座る。


「茶を出そう」


そう言っていろりにつるされたヤカンから温かなほうじ茶を茶碗に入れて獅子吼吏世に渡す獅子吼濫界。

獅子吼吏世の前に出されたお茶、さらに来客用の高価な茶菓子も出された。


「(いったい、なんの話をするのかしら)」


獅子吼吏世は緊張しながらお茶を飲む。

味を楽しむ余裕はなく、一息つくとともに和菓子をいただく。


もむもむと、お茶菓子を食べる獅子吼吏世の姿を呆然と見つめる獅子吼濫界。

獅子吼吏世はなんだか居心地が悪くて、和菓子の味も、ただ甘いだけの塊としか認識できなくなっていた。


「ふぅ……」


息をつく濫界、どう話を切り出すか困っている。


おまえはあの男が好きなのか?と、単刀直入に聞いてしまおうか、と考えて、首を左右に振った。



その問いかけに獅子吼吏世は必ず否定をするだろう。

最悪、拒絶される可能性がある。獅子吼濫界にとっては、前者よりも後者の方が痛ましく感じてしまう。


「……その、あれだ、あの、男、あの男の事だが」


どういった関係なのか。それを問うて、獅子吼吏世は眉をしかめた。


「(あの男……玖のことかしら、お父様は玖に、何かしらの興味を持っている?)」


と、獅子吼吏世はそう考察する。

そして、今度は彼女の方から話を切り出す


「彼は、私のバディ、です。討伐会の方から、二人で行動するように命令されました」


「討伐会の方からか……、そうか」


安心したように息を吐く獅子吼濫界。

どうやら、それ以上の関係ではないと理解したらしい。


「そうかそうか、いや。どうやら勘違いだったらしい、おまえがあの男を好いていると勘違いしていた、きっとバディ以外の感情など持ち合わせてないのだろう」


油断して、柔和な表情に変わるが。


「ん、」


即座に、獅子吼濫界は目をかっ開いた。

獅子吼濫界の言葉「なんの感情も持ち合わせていない」といった部分に反応して、彼女は頬を赤らめていた。



「(あれは恋する乙女、の顔ではない、むしろそれを超えている、母、母親の表情だ)」


いとしい我が子を受胎して、やさしく腹部をさする母親のような、そんな目をしている。


「(あの男かぁ!)」


声を荒げたくなる獅子吼濫界。

喉元まで出かかった言葉をどうにか流し込んで軽く咳払いをする。


「…おまえは、私が選んだ男と結婚させる」


だから、あんな子供をはらませてから結婚の報告をするような無責任な男など捨てて、父親としての幸せを思って選んだ由緒正しい男性と結婚してくれと。


言葉が足らない獅子吼濫界だからか、獅子吼吏世は彼の言葉の意図も組むことなくカッとなって立ち上がる。


「いや……絶対にいや!私は生むの、玖との子供を、絶対に、合うの、十世と!」


涙を浮かべながら獅子吼吏世は扉を開けて飛び出した。


「ま、待ちなさいっ!」


声を荒げて呼び止めるが、しかし、獅子吼濫界の声が最後まで届くことなく、獅子吼吏世は部屋から出て行ってしまった。


一人残された獅子吼濫界。

そして彼は彼女の言葉の意味をくみ取って絶望した。


「まさか……もう懐妊していたのか……」


時すでに遅し、獅子吼濫界は娘が妊娠したと勘違いしてしまった。

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