幻術を操る化物によって主人公と幸せになる夢を見せられたヒロインは現実に戻ってから主人公に想いを寄せる現代ファンタジー

三流木青二斎無一門

序章『猿の夢』

第1話 『相棒のバディ』

去年の二月。

日本の各地から化物けものと呼ばれる生命体が出現し、人を襲い出した。

世間では公開されてないがその化物は昔から存在する生物であり神隠しや怪奇事件の正体はその化物が関わっているとされていた。

その化物を討伐する組織が存在し世間では秘密であるが政府から認められている化物を狩る者、狩人であった。


そして現在。

謎の化物による大量発生によって狩人を統括する機関『討伐会』は世間に対する秘匿を解除し、大々的に活動を開始し政府からの要請によって各地で化物討伐を行っていた。

化物によって荒らされ、崩壊された都市に二人の男女が歩いている。


「あんたと一緒なんて本当最悪」


そう蔑むように告げる栗髪をツインテールにした八重歯が似合う目つきの鋭い少女が歩く。

彼女の後ろを歩く、一人の男性が言い返す。


「聞こえてんぞ、陰口なら影でやれ」


半壊したコンビニエンスストア親指で指す。

億劫そうな態度であるのは、相手が相手であるからだろう。


「聞こえるように言ってんのよ、ったく……なんで十家の人間である私が、こんな半端者と一緒なのかしら。本当に最悪」


聞こえるように文句を言う彼女を無視して、青年、岸辺きしべきゅうは前を向いて歩き出した。

しかし、彼女の経歴を見れば怒り不満を持つのも無理はない。


獅子吼ししく吏世りぜ

術師の業界では十家と呼ばれる有名な狩人の家系であり、獅子吼吏世は獅子吼家を背負う次期当主であるのだ。

今回の化物大量発生による討伐任務は、いわば彼女にとっては点数稼ぎであり、より多くの化物を討伐することができれば、その分他の十家に格と差をつける事が出来る。

だと言うのに、彼女のバディとして選ばれたのは、この化物現象に触発されて覚醒した半端者の狩人、岸辺玖である。地位も血筋も存在しない彼が相手では、より多く、より強い化物を討伐するのは無理だと思ったのだ。


上層部からの嫌がらせか、そう思う彼女は現状を受け止め、いやいやながらも誠実に任務を全うしようとしている。

それはそれはおそらく、自分に課せられた試練なのだと解釈した為だ。

バディという名の重荷に悪態をつきながら、任務を遂行するべく、獅子吼吏世は岸辺玖とともに崩壊された都市を歩いていた。


「あんたは私の邪魔をしない事、それだけを守りなさい」


「良いのか?手ェ貸さねぇぞ」


要らないわ。と、一人で任務を完了する気であるらしい。

内容も、其処まで苦心する事でも無いからだろう。


今回の討伐任務。

それは、猿の討伐であった。


老化能力を宿す化物が街を徘徊したことで、建物は崩れてあたりに瓦礫が散らばり、亀裂を作るアスファルトからは血脈のごとく立派な樹木の根が張っていた。


町の中心部から少し離れた場所には市民体育館があり、老朽化して屋根が剝されて建物を支える鉄柱と、それにとぐろを巻く巨大な樹木が生えている。

現代の失楽園的象徴が伺える場所に、その猿の化物は住んでいた。


「ずいぶんと神秘的な場所ね」


地面にはコケが生えそろっている。

屋根の隙間から差し込んでくる光が、宙に浮遊する埃に反射して幻想的な光を生んでいた


「化物が居る場所に神秘もクソもあるかよ」


濃緑色のコートのファスナーを全開にして、コートの裏に隠した武器を取り出した。

四角くて、手にすっぽりと覆う程度の小物。

ジッポライター程のサイズをした金属の塊。

その横には、小さなスイッチがあった。

それを押すと、金属から骨の様な部品が伸びて、筋肉の様な繊維が纏わりつき液体を滴らせると、液体が硬質していき、ギザギザの刃物の様な形状に変化した。

化物から採取される化石を加工する事で出来る、狩人の武器『狩猟奇具しゅりょうきぐ』であった。


それは、獅子吼吏世も所有しており、『狩猟奇具』のスイッチを押すと、骨格が生えて筋肉繊維を纏い、硬質性を持つ液体でコーティングされて、生きた武器と化す。

アフリカ系民族が使役する仮面を模した大きな盾に変貌する『狩猟奇具』は、彼女の握力によって顎が開く。


「私の言う事に盾突くの?嫌な奴ね」


お互い様だ、とそう言い捨てて二人は黙った。

これからは眼前の敵と語る必要があったからだ。

口頭での対話ではない、暴力、いや、殺し合いによる一方的な虐殺だった。


目の前には、猿が大勢いた。

殆どが、黒い体毛に、赤い眼光を輝かせる。


食料は人間だろうか。

白骨化した人間らしき骸骨の中には未だ血と肉がこびり付く真新しい食べカスが転がっていた。

しかし、異臭は無かった。

臓物の異臭と血肉のさびた臭い、糞尿が撒き散らされた嫌悪感。

骨があれば、必然的に、そんな臭いがある筈なのだがここにはない。


人は料理をする野菜を剥いて切り刻み肉を切ったり叩いたりして調理をする

其処から出る食材の残片は放置をすれば臭くなる。

だから一か所に集めて捨てる、臭いが移らない様に。

彼ら猿の化物は、それが出来る程の知性を持つ。

だから油断は出来ない、する慢心も存在しない。


「訂正するわ、少し手を貸しなさい」


敵の戦力を見極めて、獅子吼吏世はそう言って岸辺玖に要請する。


「まあ、仕方ねぇな、総量が三十体くらい、俺のノルマは十体で良いな?」


岸辺玖も、二人が強力しなければ切り抜ける事は出来ないと判断し、自らの目標を掲げ獅子吼吏世に聞くと、彼女は頷いて自らの狩猟奇具を猿の群れに向けた。


猿の化物らは憤りを感じる様な奇声を発して、岸辺玖と獅子吼吏世に向けて向かい出す。それに合わせる様に、二人は言語入力による狩猟奇具の能力を開放した。


うたえ、『咆髏ほうろう』」

頬擦かすれ『鮫肌さめはだ』」


そして、両者二名による戦闘が開始される。

数十体の猿の群れに対し、二人の狩人が向かうのだった。





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