[6-6]個人レッスンとドキドキハプニング
ピアノの練習はうまくいっている。
わたしがピアノの練習に追われている間、アルバくんは
その話の流れなのかもしれないけれど、アルバくんは
なにもかも、すべては順調だった。たった一人、
「
わたしは一緒に練習するまで知らなかったのだけど、実は
楽譜の読み方を教えてって頼んできた時はびっくりしたけれど、妙に難しい顔をしていたのはそのせいだったのね。
わたしがピアノの音を出して、
「わかった。努力してみる」
最初は不満そうにしていた
だからこそ先生も練習には付き合ってあげているし、わたしも力になってあげたい。苦手なものって放り出したくなるの普通だと思うもの。
「そろそろ休憩にしましょうか」
「そうですね」
先生はよく細かい休憩を取ってくれた。
もともと音楽が好きなわたしはともかく、
「先生は近くのコンビニでお菓子とお茶を買ってくるから、
「わかりました」
教壇の上に置いてあったバッグを持って、音楽室から出て行く前に先生はそう言った。
「
「
弾んだ
うん?
よくわからないけれど、機会があったら今度先生に聞いてみよう。
それよりも、先生たちが買い出しに行ってくれている間に、わたしはお茶休憩の準備をしておかなくちゃ。
「わたし、紙コップ取ってくるね。
「ああ、わかった」
黒板の右端にある扉を開けると、そこが音楽準備室だ。
窓際には先生の事務机があって、室内はきれいに整理整頓されていた。この分なら紙コップはすぐに見つかりそう。ええと、どこにあるのかしら。
部屋を見渡してから、わたしはすぐに目当てのものを見つけた。本棚の上にビニール袋に入った紙コップが乗っかっている。
腕を伸ばして背伸びもしてみたけれど、全然届かない。どこかに踏み台でもあればいいのだけど。
少し探してみると、脚立を見つけることができた。畳んであったそれを起こして、安全の留め具をしっかりとかけて倒れないようにする。
高いところはこわくない。だから、あまり深く考えずに脚立に登ったのだけど。
なぜか、ふと気になってしまった。
制服のスカートは極端に短くはしていないけれど、膝上くらいの長さで、少し短めだ。もしかしたら誰かに下からのぞかれると、見えちゃうかもしれない。
——って、わたしってば何考えてんの!
今、準備室にはわたししかいないじゃない。早く紙コップを取って、音楽室に戻ろう。いつまでも
「うーん、もうちょっと!」
腕を伸ばすと、ビニール袋をつかむことができた。中に入ってる紙コップは封が切られてないみたいで新品だ。
よし、これでとりあえずミッションは達成ね。
ほっとひと息をつき、わたしは脚立を降りようとした時だった。
ふいに準備室のドアが開いて、銀の人影が入ってくる。
「
「え、うそ! きゃあっ」
声をかけられた瞬間、わたしはひどく動揺した。中が見えちゃう、とっさにそう思って急いで下りようとしたの。それがいけなかったんだ。
見事にずるっと脚立から足を踏み外し、世界がぐるんと斜めに傾く。
しまったと思った時にはすでに遅かった。
「
目を閉じる寸前、たしかにそう名前を呼ばれた気がした。
(……あ、あれ?)
ものの見事に脚立から落っこちたはずなのに、ちっとも痛みを感じなかった。
すぐに目を開けてから、すぐにわたしは事態を飲み込んだ。
床に投げ出されたはずの身体はある人の上に乗っかっていて、気がつくとわたしは
視線を巡らせると、倒れた脚立が見えた。
一瞬のうちに起きた出来事を思い返し、わたしはすぐに起き上がろうと思った。
もしかして、今わたしは雨潮くんの腕の中に——。違う、そうじゃない。もしかしなくてもわたしってば、
「ご、ごめんなさいっ!
とっさだったからか、さっきは苗字ではなく名前を呼ばれたような気がする。けど、そんなこと気にしている場合じゃないわ。
すぐに
見たところ青ざめていないし、血色は悪くない。でも見ただけじゃ怪我がないかどうか分からない。
「痛いところない? 絶対強く打ったよね!? 今からでも保健室に——」
一度、先生に診てもらおう。そう言って
強い力じゃない。振り払おうと思えば振り払えるくらいの、やんわりとした力。
なのに、わたしはとっさに振り払うことができなかった。
(え、なに。どういうことなの)
身体中に動揺が走る。
まっすぐな視線はどこか真剣な雰囲気で、思わず心臓が跳ね上がる。
わけがわからない。どうしちゃったの。まるで強い意思を宿したような瞳だった。こんな
先生たちは買い出しに行っていて、音楽準備室に二人きり。その事実が、心臓の鼓動を早めていったのだった。
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