コバナシ 樹海譚

鷹美

第1話 1

意識を失う前は覚えている。

不要となった兵器の処理。


耐水実験とか、水没させた際のストレスの状態を調べたいとか何やら色々と機械を付けられた後に鎖で簀巻き。

そのまま、水深の深く流れの強い海辺にぽちゃん。


鎖が重りとなって浮き上がってこないし、海流が強いと死体が見つかった際の特定に時間がかかる。

国の人間も関わってるのだ、時間があればもみ消す自信があったのだろう。







そんな中で生きているのもそうだが…仰向け倒れている俺の目の前にいる小娘は誰だ?



「…ここはどこだ?」


「お、目を覚ましたようだね。

おーい、皆!!


寝坊助さんが目を覚ましたよー!」



よくわからない目隠しをした艶のある綺麗な黒髪をした女は、仰向けになって寝ていた男が目を覚ますと彼の質問に返答せずに大きな声で仲間を呼び始めた。



あの小娘が呼ばなかった仲間が来るまで詳しい話は聞けなさそうだ。


そう考えながら、苛立ち混じりで舌打ちをした後に男は視界や顔や体を動かして現状を確認する。



見たことのない和室の部屋と天井。

青々しい香りがするから、この部屋はおそらく畳が敷かれているだろう。


部屋の外は襖が閉まっており、外の様子はわからない。


フカフカの布団と、枕元には水の入った桶とタオル。


体に力を入れてみると、僅かながらの痛みを感じる。

致命傷がこの程度で済んだのは、傷が治りやすい体質のおかげだろう。



そして、この場所の検討はつかない。

あの小娘の仲間とやらがくるでおあずけだろうな。



男が、思考を張り巡らせて今後の方針をある程度定めた時に開けたままの襖がさらに大きく開いた。



「〝姫〟、一人でここにいちゃダメだと言ったでしょ。

〝バル〟は一緒じゃないのか?」



黒髪の女が叫んで直ぐに、襖が開かれるとやや青みのある黒髪の女性が目隠しの女に引っ張られるよつか感じで入ってきた。


短めの髪型、右目にはモノクルのメガネをかけていてベストとワイシャツを着ていて男装ような恰好をしているせいか王子を思わせるような雰囲気をしていた。


部屋に入ると、やれやれと言った様子で服装を正して、警戒しているようなやや冷たい視線を寝ている男に向けながらゆっくりと腰を落とした。




「初めまして、私はコルノ。

引っ張ってきた彼女の従者さ。


ぁあ、怪我はひどいからそのままで大丈夫だよ。

浜辺でぐったりしてたから、びっくりしたよ。

鎖でぐるぐる巻きにされて流されたようだけど…何か悪いことでもしたのかな?」



冗談を言うような軽やかなトーンで言ってはいたが、警戒は解かれておらず動いたら直ぐに攻撃されるだろう。



とはいえ、いきなり殺さずに手厚く手当てをしてもらってるのだ。

上等すきる対応だろう。



「俺の名前は〝プロト〟。

他国から廃棄された生物兵器だ。」



別に隠すことでも言い迷う事でもない。

プロトは何てこともないようにサラッとコルノに告げた。


勿論、もっと警戒はされるとは思うが慣れあうつもりのない。

そう考えながらプロトはゆっくりと立ち上がる。



「言いにくいことだと思うけど、廃棄について具体的に聞いてもいいかな?」



座ってる位置を直すような形でさりげなく目隠しの女の盾になるように動く。

動くプロトに露骨に警戒を始めたが、プロトは気にする様子はない。




「別に頭を使う話じゃねーよ。

不要になったから、簀巻にされて海にポンと投げ込まれた。


…ったく、仮にも科学者を名乗る集団なら他にも手段はあっただろうが。

低能のならず者でももっとマシな手を思いつくぞ。」



プロトの思いもよらない素性に驚く様子はあれどコルノは、尻込みや怖気付く様子もない。


プロトも自身の身に起きた事に対して何処か他人事のように説明していて、苛立ちを表す舌打ちをしてきるのだが、それから感情のようなものは感じられない。



コルノは不思議そうに、部屋に設置されている鏡を眺めるプロトに視線を向ける。



プロトは、そんな視線を煩わしそうにしながら全身の怪我の様子を確認した。


回復込みとはいえ、海に投げられたにしては怪我は浅い。


灰色の両眼に外傷なし。


包帯も巻かれていないし茶髪の癖っ毛が血で塗れた様子もないから、頭部の外傷もないだろう。


体を動かしても痛みは無くなり問題なく動かせるから、骨折などはしていない。



確認を済ますと、右腕に巻かれた包帯を雑に取るとプロトの後ろから猛烈に睨みつける巨体が鏡に写っていた。


気配を感じなかった。

バッと直ぐに後ろを振り向くと、よく部屋に入れたと思える程の巨体の女性が腕を組んでたっていた。


間違えてデブ等と言ったら、笑顔で地獄への片道切符をプレゼントしてくれそうな人だった。

逞しい目つき、素敵なたらこ唇がチャーミングポイントで、ピンク色の和服を身に纏い可愛い花の髪飾りでお洒落をしている。



「貴様ぁ。

当主…いや、お嬢様が手当をするよう計らって下さったのだ、まずは礼が先ではないのか?」


「言い直さないでよ〝バル〟、我は当主ぞ。」



バルと呼ばれたギャグ成分100%の人物に正論を言われると、悔しい気持ちになるが…。

そういえば、目を醒めてから礼も言えていない。



プロトは、お嬢や姫と呼び方が安定していない目隠しの女の前までに歩くとゆっくりと膝と折って頭を下げた。



「手当てしてくれてすまねぇ。

命拾いした。」



「貴様ぁ…。」



プロトの謝罪が気に入らないのか、前に出ようとしたバルをコルノが静止する。

コルノに止められたバルは、何やら言いたそうにしていたが威嚇するようにグルルルルと喉を鳴らして文字通り言葉をゴクリと飲み込んだ。



「やれやれ、今回は姫の勝ちだ。」



コルノはゆっくりと、プロトの近くまで移動する。



「先ずは、露骨な警戒を謝罪をさせてくれ。

すまなかった。


得体のしれない戦士となると此方も不安だった。

君が暴力的だったり、礼を欠いた人間だったら…始末する予定だった。」



始末する。

柔らかな喋り方をしていたコルノからでたその言葉には得体のしれない圧を感じた。


見た目の割には物騒な奴らだ。

ボリボリと頭を掻いた後にプロトは大きく欠伸をしてジト目でコルノに視線を移す。



「物騒な世の中だ、気にはしねぇよ。

俺にとっては、意識が無い内に死ぬか…あるうちに死ぬかの違いだ。


それで、やっとここがどこだ教えてもらえるんだろうな?」


「あぁ、勿論。

ここは、戦と言う名の土地で…怪談の話によく出る大きな樹海のど真ん中さ。」







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