第48話 近接戦闘に慣れない
「ぐはっ…!!」
ゴロゴロゴロ!!
殴り飛ばされた俺はいとも簡単に壁に叩きつけられた。
『AP残り25%―――』
「くそぅ…以前にも増して機動性が上がった分―――こいつの機動力に俺が付いていけないでいる…」
実際使用してみれば歴然の機動性能と、さらにはその反面で落ちた装甲値…どちらも俺はシュミレーションルームの”アンノウン”と戦闘を繰り広げ痛感した。
『ちょ、ちょちょ!? 何かこっちは五月蠅いんだけど本当に大丈夫なの!?』
『五月蠅いフレイアですね。 問題ないですよ、あくまでもシュミレーション――痛みや衝撃は感じますが、死にはしないので』
そう。 ここが肝心である――死にはしない――が、死ぬほど痛い思いをするのもまたこのシュミレーションの素晴らしさと言っても過言ではないだろう。
『だから早くフレイアも”バルカン”を当てれる用に頑張ってくださいね~』
『こ、このバルカンって奴はなかなか難しいのよ! ご主人様がなかなか敵の方向を見ないんだもん!』
『見た時に撃てばいいじゃないですか! そんな駄々をこねても頭部の操縦権限は与えませんよ。 変な方向を見られても困りますし』
おまけに、どこから取り出したのか。
アイアン・ソード解禁と同時にすべてのアーマーに装備する事の出来る”オプションパーツ”を装備した俺は”新人”のフレイアに”バルカンポッド”の使用権を譲渡した。
なんせこのアイアン・ソード、例えオプションパーツとは言え射撃態勢に入るには、ブレードを納刀する必要があったりと色々制約がある。
ある意味、その制約を無視できるのか…胸部パーツに格納されたブイの仕事なのだが…ブイはバルカン程度のものにリソースを割く暇はないと言った。
とは言え、どうせタダなのだからあっても損は無いという発言から――――フレイアに全てを任せる事となった。
「しかし…オプションパーツか。 侮れないな」
『はい。 一概に威力の低いバルカン砲とは言え、中距離からの攻撃を可能とする兵装があるのとないのでは天と地の差です』
「間違いない。 ってな訳で、フレイア…頼んだぞ」
『う~…が、頑張る』
それにしても、このアンノウンとかいう化け物―――とんでもない能力をしてやがる。
その辺のモンスターと比べてもその力の差は歴然だ。
俊敏な動きでありながらも、規則性のない予測不可能な動き、相手の考えが読めないからこそこちらも攻撃の予測が出来ない。
いや、相手の攻撃にまだ反応出来ていないと言った方が正しいか。
『kgdさkdgさいdgさいdさぐだ』
「相変わらず気持ちわりぃ奴だ。 そろそろ腕も限界か…Z、今の内に取り換えてくれ」
『了解。 左腕部の接続を解除―――』
ガシュン!
ボロッと落ちた左腕を見ながら俺は思う、今…俺の身体はどういう状態になっているんだろうと。
確かに左手は抜け落ちたが、そこから俺の生身が現れるでもない―――本当に”今”この瞬間はロボットに成っているような感覚だ。
『接続――――換装完了―――換装用の腕部はこれで終了です。 お気を付けください』
「よし。 いっちょやるか。 ブレード展開!」
キュィィィン! ブォン…
激しく振動を始めるブレード、この状態を”バイブレート状態”と言うらしい、なんでもブレードを超振動させる事で破壊力を劇的に向上させる代わりに腕の耐久値を消耗するという―――いわば諸刃の剣である。
まぁ、通常状態でも戦えない事は無いが…その状態であいつの再生能力を上回る程の破壊力があるとは到底思えない。
「さて―――換装用の腕も無くなったわけだ。 やるしかねぇか!! うぉぉぉぉ!!』
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「で? 全員ボコボコにされたと?」
「はい…」
天井を眺める俺は、真横からする妹の声にそう返事を返した。
「全く、そのシュミレーションとやらは本当に大丈夫なの?」
『はい。 問題はありません、あくまでもシュミレーションですから…アーマーのAPが5%以下になると強制的に終了致します』
俺が横たわるベッドの頭付近に置いた携帯端末を介してZは答える。
「はぁ…確か。 Z? そこって私達”家族”も入れるんだよね?」
『はい。 既に申請は完了しています―――挑戦されますか?』
「答えはYESよ!」
――――――――――――――――――――――――――――――
「で? お前達兄妹揃って仲良くボコボコにされたと?」
夕飯を口に運ぶ俺達は、なんとか母さんの治癒魔法のおかげで外傷は全てなくなり、普段の生活を送れる程度には体力も回復した。
「いやぁ~…お兄ちゃんがボコボコにされたっていうから。 どんな感じなんだろうな~って思ったら…そりゃもうあっさりアレで…」
「相当強いのね、そのアンノウンってモンスターは」
「いや、いくらんんでも強いってもんじゃないだろう。 少なくとも優香をここまで出来ると言う事は相当な脅威だ。 よし―――俺も挑戦してみるか!」
そして――――――――――
「ぐふっ…しょ、食後の運動としては…あまりに…」
「だから言ったじゃない、はぁ…あなた達といい、この人といい誰に似たんだか」
あきれ顔でボロボロの親父に治療魔法をかける母さんは、父さんの戦闘を眺めながら”まぁ無理ね”と断言し、シュミレーションルームの前で俺達と一緒に待機していた。
言うまでもないが俺達親子は仲良く、暫くの間シュミレーションルームの使用を1週間程”使用禁止”と母に命じられる事となった。
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