第38話 ダークエルフ病の男
「その、騙していて済まない」
やっと真面に口を開いたかと思えば、彼女の第一声はそれだった―――
「何を…」
「俺がその、異世界人で”狂戦士”っていう部族の生き残りだって事だ。 聞いたんだろ?」
「あぁ、まぁ…」
で? と言いたい気持ちを抑えながらも俺は彼女の言葉に耳を傾ける。
「実は、俺は狂戦士とダークエルフのハーフでな。 見た目は基本的に人間に近いんだが…ほら、この背丈とか…身体付きていうかよぉ?」
言われてみれば、この世界の住人の中では180cmを超える女性はそれなりに珍しい事ではあるが―――身体つきもなんというか出るところは出ていて引っ込んでいる所はちゃんと引っ込んでいる。
まぁ確かに、腹筋あたりは男の俺からみてもかなり逞しく思える。
「ふ~ん…」
「おい、なんかリアクション薄くねぇか? 俺はこの世界の”人間”じゃないんだぞ!? と、年だって…本当は60を超えて…」
「な、なにぃ!? その見た目で!? 60を超えている!? ダークエルフの血すげぇ!?」
俺は驚きのあまり席を立つとグルグルとカイネの周りの見つめる。
とてもじゃないが、60を超える女性だとは到底思えない肉付きだ。
いやはや”エルフ”という存在が本当に居た事にも驚きを隠せないが、これほどまでに肉体が衰えないとは…末恐ろしい存在だと思う。
「失礼を承知で聞くんだが、因みに人間年齢に換算すると?」
「に、にじゅう…よん。 ごさい?」
「なんだ、結構―――」
ゴンッ!!
「いでぇ!!」
何故かその瞬間カイネに頭部をぶん殴られた。
「ダークエルフは平均寿命が150年程しかねぇんだ! そりゃそうだろ! つーか、なんだ!? お前もダークエルフとかそっちに欲情する系の男だったのか!?」
「何言ってんだ――――当たり前だろう」
俄然強気で俺はカイネを見つめる。
「―――へ?」
すると真っ赤な顔をして急にアホになってしまったカイネさんはふらふらと席へ着いた。
「いいか? ダークエルフだぞ!? ダークエルフ! 褐色最高!! エロさ爆発だ!! いやぁ~まさか本当にダークエルフが存在するとはな!? 確かに確かに! カイネは可愛いと思ったんだよなぁ~! やっぱり俺の勘に狂いは無かったか…」
「―――きゃ、きゃ、きゃわいい!?」
「あぁ、自信を持っていい。 お前はどうもわかっていないようだから、教えよう―――俺の運命の相手”ダークエルフ”のシオンさんとの出会いを!!」
「――――え?」
俺が今からカイネにダークエルフさんのすばらしさを伝えようとした時である。
すると急に部屋の扉が開き―――
ガチャン!!
「カイネさん、だめぇぇぇぇぇ!!」
「な、なんだ優香!? 突然どうしたってんだ!?」
「よく来たな優香。 それでは、Z!! ダークエルフの”シオン”に付いての講義を行う!! ディスプレイ起動!!」
『了解―――ノベルゲーム『ダークエルフのシオンさん』についての解説を行います―――』
―――――――――――そこから俺とZの講義は2時間にも及ぶことになった。
「―――という訳で! ダークエルフのシオンさんは可愛そうな女の子なんだ! ちょっとエッチな所はあるかもしれない…それでも相手を思い健気に努力する姿!! かわいいオブかわいい!! そうだろおうぅ!?」
「「はい…」」
「では、次回作! 『続ダークエルフのシオンさん いちゃいちゃパラダイス』も続けて紹介するとしよう!!! Z!!」
『ラジャー』
そこからさらに講義をはじめ計4時間に及ぶ俺のダークエルフのシオンさん話は続いたのであった。
本来も目的も忘れて――‐
―――――――――――――――――――――――――
これはある男がダークエルフについて熱く語った後、話をそっちのけで満足げにその場を去った後のお話―――
ある少女は赤い髪の女性に告げる。
「だから言ったじゃん…ダークエルフって言っちゃダメだって!!」
顔を真っ赤にして怒り狂う少女を前に、反省したのか少し縮こまった様子の女性。
「す、すまん…あいつが、あんなにダークエルフについて熱く語るなんて思ってなくてな…」
気のせいか、ほんのり女性の頬は赤く染まっていた。
「なんというか…色々あったの!! 真奈ちゃんとお別れしたあとに慰めようと思って私が偶々見つけたゲームをお兄ちゃんに渡したら”ダークエルフ病”になっちゃったんだもん!」
「ダ、ダークエルフ病!?」
「そうだよ!! あれはもう病気だよ!! ダークエルフの話になると…すぐにお兄ちゃん我を忘れちゃうの…よっぽどゲームがよかったのか…いやぁ違うなぁあれ…だから!!! カイネさん!」
「え、え? なんだよ?」
「半分ダークエルフのカイネさんはチャンス到来です。 さぁ…どうする?」
「――は?」
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