俺達が駆け込んだのは、音路町ヒルズの近くにある昔ながらの鉄板焼き居酒屋だ。夜湾はそこに早く来るように俺に言った。店の引き戸の前にはうんざりしたような夜湾が店の入り口を指差して待っていた。


「アマさん!待ってたで!」

「あれ?天峰は?」

「話はあとや!中に!」


 俺は店の引き戸を開けた。奥に続く階段の上にいるらしい。駆け上がるように俺達捜し屋は突入した。


「あ!」


 座敷席にはばったりと倒れている金城がいた。俺は金城に声をかける。


「大丈夫か?」

「もっ…もう勘弁してくらはれ……」

「オイッ!話は終わってねぇぞこら!」


 襖の向こうから焼酎のグラスを持った倭同が現れた。目は完全にいってしまっている。真っ赤な顔。明らかに泥酔している。中を見ると……


「っざけんじゃねっての!オイッ!倭同!そこの脚本家連れてこい!」


 俺は頭痛を感じた。この男、針生天峰は酒を飲むと完全に人が変わるのだった。倭同も同じなのだろう。いや、二人揃ってタチが悪い。


「ハ……ハリさん」

「ミイラとりがミイラってのは、本当ですね。アマさん、僕に任せて。皆は金城さんを連れ出してあげてください」

「あれっ?充さんは?」

「こういった酔っ払いの相手は慣れていますから」


 ウインクをした充。俺は金城をおぶって店をあとにした。もうやめて、もうわかったからとうわごとのように呟く金城。

全く、どっちが被害者なんだよ……



「ここは……」


 目を開けた金城は俺達捜し屋を見て目を白黒させている。泥酔していたせいか頭はガンガンするらしい。


「あんた、倭同和弥を拉致したのか?」

「ら、拉致なんてしてない!」

「じゃあ何故、倭同は行方不明になったんだ?」

「お、俺は説得しようと、あいつを目いっぱい接待してたんだ!」

「千石に、連れ戻せと?」

「せっ、千石さんは関係ない!俺がいる限り、あの人は劇団から離れられない!」

「ふぅん、やっぱり弱味握ってたんだ」


 金城はくっ、と苦々しげに吐き捨てた。


「千石さんも、俺が接待した。あの人の痴態をカメラに納め、ばら撒かれたくなかったら俺達の劇団に来いと言った。あの人は根っからの役者だ。その代わり名ばかりでいいから俺を団長にしろと言った。そのくらいは、お安い御用だったが……」

「なら、今回は倭同の痴態をカメラに納めて、劇団に留め置くつもりだったんだな?」

「しょうもない奴やな……」

「おっ、俺の夢だったんだ!劇団は……俺の脚本で、舞台を作り上げるのが……」


 金城はさめざめ泣き出した。


「よく分かった。やり方がまずかったな。もっとお前もよく他の舞台を観て勉強すれば、もっともっとよくなると思うぜ」

「……今川焼き屋さん……」

「そういう事っ、だから倭同さんを解放してあげてね」

「……そんなに、俺の脚本って……」

「はっきり言って、最悪」


 そんなぁと言って突っ伏した金城を帰宅させ、この事件は終了した。それからは、倭同は新しく劇団を立ち上げ、脚本家として【ラブ・バラードを聴かせて】の脚本家である先生の弟子を紹介された。劇団員はネットで集め、まだ5人しかいないが、頑張っている。


「アマさん、よかったら舞台に……」

「すまねぇな。俺は今川焼きを焼くのが仕事なんだよ。興味ある奴なら……」


 俺は傍らで今川焼きを頬張る【甘納豆】の二人を指差した。


「悪くはないんすけど、コントになりそうで」

「おいおいおいおい!」

「誰が漫才やっちゅうねん!」

「漫才じゃなくて、コントだって言ってますよ」

「一緒や!」


 時計をチラリと見て、新しい劇団の主宰は音路町に消えていった。彼等の劇団の初公演には、是非ともVIP席で観覧させる事を約束させ、俺はその姿を見送った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る