プロローグ

「天気ガチャ、神引き! UR級の晴天! 雲ひとつない、写真日和ー!」

「はしゃぐな、はしゃぐな」

 ゲームに疎い根っからのアウトドア派の割に、最近ゲーム用語を使いたがる彼女は、その気質どおり、今日もピョンピョンと飛び跳ねている。

 俺は、活動的な彼女に振り回される対策に、軽めの準備運動を始めた。写真を撮りに行くために、準備運動が必要ってなんなんだろうな……。尚、タフな彼女に準備運動は必要なく、初っ端から飛ばしまくっている。シャッター音が、やかましい。ミラーレスカメラなんだから、シャッター音オフにしてしまえばいいと思う。やかましいから。

「毎度毎度、撮りまくっているが、データ量ヤバくないか?」

 いくら、デジタルデータで、フィルムのような消耗品ではなく、金がかからないとはいえ。それに……。

「そろそろ、パソコンと繋いだハードディスクがヤバいね!」

「思ったよりもヤバかった!?」

 いや、そういえば……。

「写真の整理とか、してるか?」

「え、全然!」

 やっぱりな!

「しろよ!」

 失敗した写真からも、学ぶことはある。失敗したのも消すなって言う人もいるけど……。HDDを埋め尽くす勢いなら、整理しろよ! そして消せよ! と、無駄だと分かりつつ、言ってみる。

「分かってるけどさー、家でする作業は退屈!」

 そう返してくるだろうね! 知ってたよ! このやりとり、初めてじゃないもんな!

 彼女は、写真を撮ることが好きだ。しかし、何分、根っからのアウトドア派なものだから、パソコンの前に座って写真を選別し、整理することには、とんと向かない。ただ、撮る。ただただ、撮る。そして、パソコンにデータを移行させるだけ。おそらく、後から写真を見返すようなことも、しないのだろう。写真を見返す時間があるなら、新たな写真を撮りに行く。

「あっち行こうよ!」

 彼女は、言葉と同時に、走り出す。俺の返事も聞かずに。指が示す先には、噴水の姿。

「了解! ちょっと待ってよ!」

 彼女に続き、俺も走り出す。俺の返事に、彼女は振り向いて、手を招いた。

「早く! ほら、青信号だよ!」

 噴水と俺らの間に横たわる、幹線道路の横断歩道手前。立ち止まった彼女に、車が突っ込んで来る。

 そのまま、車は、彼女を轢く。

 俺の目の前で、彼女が車に轢かれる。

 俺は、動くことができなかった。

 栄えた場所ではないとはいえ、駅前。近くにいた人が呼んだのだろう、救急車が到着する。彼女と共に乗せられて、病院へ向かう。

「なんで、俺がこんな目に……」

 事の起こりは、一時間前。

「どうして、俺たちがこんな目に遭わなくちゃならないんだよ……」

 もしも、過去に戻れたら……。

「やり直してえ……」

 もしも、やり直せたら……。

 噴水の手前の幹線道路。突っ込んできた、居眠り運転の車に轢かれた彼女。病院のベッドに横たわる彼女の小麦色の手を、俺は握っていた。彼女の臨終を告げる医者の声が、嫌な現実味を持って、俺の耳に届いた。

「やり直したい?」

 彼女の声が、聞こえた。抑揚の小さいその声が、小さな波を立てた。彼女の陽気なとは違う声。でも、たしかに、馴染んだ彼女の声。

「やり直したい」

「なら、やり直そうよ」

 だって、おかしいじゃん。

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俺と彼女の終わらない昼下がり 結城亮也 @Yuki_Yoriya

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